コロナ流行経て…海外医師が見た日本人の「弱点」

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その8

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。 

元外務省医務官の仲本光一先生との対談も今回で最後になります。
今回は海外で働くことの意味と、その後のキャリア形成について、いろいろと教えていただきました。
私自身もずっと海外にいるとは考えていませんが(とはいえもう8年)、海外に出たことによって視野が広がり、やれることが増えたので、一度は海外に出てみるのは良いことではないかと思っています(できれば独身の時に出てきたかった(´・ω・`))。

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奥州保健所前にて、岩手県知事の達増知事(左)と仲本先生(右)(画像:筆者提供)
 グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。

 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。

 仲本光一先生との対談は、今回で最終回。最後は、世界的に流行する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を題材に、元医務官で現保健所長の仲本先生と、ベトナムの臨床医である中島先生が感じた、これからの日本人医師に必要な「視点」についてお送りします。

もはや「大規模災害」となったCOVID-19
――医師が感じた「情報」の危険性

中島 仲本先生は今、ジャムズネット(『日本人は「弱者」で「マイノリティ」…医師はどう支援』参照)のメンバーであり、岩手県広域振興局保健福祉環境部技監 奥州・一関保健所長としてCOVID-19の対応をされているとか。私にはこのパンデミックが大規模災害のように見えていますが、仲本先生は今の日本や世界の状況をどのように感じていらっしゃいますか。

仲本 そうですね。これは大規模災害だと思います。

中島 震災など大規模災害時に邦人を支援するのも、外務省医務官の仕事の一つです。仲本先生の海外での経験が役に立っていらっしゃるのではないでしょうか。

仲本 はい。今の保健所での仕事に、外務省医務官時代の公衆衛生の知識などは大変役立っています。保健所の仕事は初めての経験ですが、海外での災害発生時の対応と近いものがあると感じています。

 非常時こそ、情報共有や周囲とのコミュニケーションが必要です。しかし、日本という国はそれがあまり得意でないと感じます。平時のシステムは本当によくできていると思うのですが、有事となると……。SARSやMERSの流行時に日本は大きな被害に遭わなかったため、のんびりと構えてしまった面があるのでしょうね。

中島 私は誰に頼まれたわけでもないのですが、COVID-19によるインフォデミック(真偽不明な情報が急速に拡大し、社会に影響を及ぼすこと)がベトナムの邦人社会で起こらないよう、正しい情報をピックアップし、わかりやすい日本語にして発信するようにしています。特に、ベトナムなどの邦人社会の歴史が浅い発展途上国では、医療に関する正確な現地の情報を日本語で手に入れるのは至難の業です。そんな邦人社会でインフォデミックが起きてしまうと、患者さんにいろいろなことを聞かれて面倒になるという点もありますしね。

仲本 ジャムズネットにとっても各地域におけるCOVID-19の正しい情報発信は大きな役割であると考えています。最近はインドの変異株が話題になっていますが、以前私はインドにいたので、ニュースで報道される内容は理解しやすいです。たとえば、「ガンジス川に遺体が焼かれずに流されている」というニュースも、私は実際にガンジス川に行っていたので、状況を想像できます。

 インフォデミックが起きると大変なことになります。そうならないよう、各地のジャムズネットでは日本のかたにできるだけ正しい情報を整理してお届けするようにしています。

外国人は「日本人が好き」なのか?――医師が「外に出て」見えること

中島 COVID-19を経て、これからの日本人医師に求められる能力はどういうものとお考えでしょうか。

仲本 外に出て、世界を見ることだと思います。これからの若い医師には、中島先生のようにぜひ世界に出てほしい。そして、外から日本を見る機会をもってほしい。日本にだけ留まっていると、情報が偏ってしまうように感じますから。

中島 日本の医師に対してというより、日本人に対して私はそう思っています。外に出てみて、外部の目にさらされたほうがいいと思います。日本人は、海外の人の多くが「日本のことや日本人を好き」と思っていますけど、それは、お金や国力があるうちだけだと思うのです。そうでなければ、英語もしゃべれないような国の人を相手にはしてくれないだろうと、日々の生活のなかで感じながら過ごしています。

仲本 一方で、海外にいると、昔の日本人の先輩たちが外国でいかに苦労をしてきたか、リスペクトされてきたかについて感じる機会が多くあります。アメリカやブラジルで苦労した日本人がいるからこそ、現在の日本の評判は守れていると思うのです。ですから、この評判を維持していけるよう、今の先生方には頑張ってほしいと期待しています。

中島 仲本先生がおっしゃる通り、先輩たちがやってきたことを切り売りしながら、何とかやれているという面がありますね。

 それから、全然知られていませんが、ベトナムでのCOVID-19対策に、実は日本の医療機関がいろいろと協力したり手を貸したりしているのです。そういうことについて、もっとうまく情報発信をするといいのにと思っています。

仲本 2014年にエボラウイルスが猛威を振るった際、アフリカのギニアでは野口研(野口記念医学研究所)が活躍しました。これも昔の遺産ですよね。だって、野口研は、野口英世の功績を記念して作られた研究所ですから。これらのことについても、日本のかたには知ってほしいものです。

 私が医務官になった頃と比べると、今は、世界中に優秀な先生がたがたくさんいらっしゃいます。ですので私は期待していますし、今後の日本の医師はどんどん活躍していくと思っているのです。そして、世界のリーダーになってほしいですね。上手にやっていける資質が充分あると思いますから、ジャムズネットが、そのお手伝いを少しでもできるといいなと思っています。

 加えて、ジャムズネットを通じて、整理された正しい情報を一般のかたに伝えることで、日本人のメディカルリテラシーを高めていきたいと思っています。

海外勤務を終え…元医務官が今後目指すのは

中島 日本の優秀な人たちが世界で活躍していますが、そういう人たちの多くは、国の研究所などで働いています。つまり、日本の医師免許を持っていても、現地で医療行為ができるのかというと、できないことが多いのです。

 そういう意味では、国として日本人を海外で活躍させたいのであれば、海外に転居する日本人とセットで日本人の臨床医を移動させるシステムが必要なのではと思っています。しかし、現時点での制度的な状況を考えると、現実的ではないでしょう。

 また仮に日本人医師が現地に常駐していても、患者側の医療リテラシーは高まらないと思うのです。理想的なのは、医療を受ける側である日本人が英語力を磨いて、日本人医師以外の診察を問題なく受けられようになったり、一人一人が病気にならないように予防や工夫をすることです。

 そう考えると、やはり、医療を受ける側を「教育」することがとても大事なのだと思います。

仲本 本当にその通り。中島先生はいいことを言ってくれますね。日本は病院にかかりやすい国なので、「救急車が無料だから」と夜中に呼びたがる。また、風邪を引くとすぐに病院へ行って抗生物質をもらいたがるという、リテラシーの低さには問題があると思っています。保健所で働いていると、学校教育の現場で医学的なことが全然教えられていないという問題にも直面していて、教育の必要性を非常に感じますね。

中島 最後に、仲本先生が外務省医務官を経験なさったことで、現在のご自身に最も活かされていると感じることは何でしょうか。

仲本 中島先生を含め、いろいろなかたたちとつながっていることが大きいです。私の能力には限りがありますから、誰かに頭を下げることはまったく苦になりません。若い人たちの能力をうらやましいとも思っていますし、今後はこれまでの人脈を活かして、若く才能のある人たち同士を結ぶ“ハブ”の役目を果たせればと思っています。

 それから、日本に帰ってきて感じたことは、地方医療と海外の医療はとても似ていて、やりがいがあるということです。都会の医療よりも恵まれている面がたくさんありますから、若い医師のみなさんは海外へ出たあとに地方の医師としても頑張っていただけるとうれしいですね。

中島 4回にわたる対談は、今回でいよいよ終わりを迎えます。仲本先生には昔からお世話になっていますが、これだけ長い時間をいただいてお話をするのは初めてのことでした。

仲本 これまで、中島先生が海外から発信される言葉を拝見して、同じ“におい”を感じていましたから、この対談は二つ返事でお引き受けしたんです。コロナ禍が収まったら、リアルでお会いして飲みたいですね。

中島 本当ですね。日本に帰れる日が待ち遠しいです!

次回予告

 次回からは、海外を舞台とする人材紹介会社社長という経験をもつ加藤将司氏に登場いただきます。「海外で日本人医師はどうやって生き残るか」をテーマに、中島先生の体験も踏まえながらお話いただきます。

<参照>
JAMSNETホームページ
JAMSNET-東京ホームページ