交渉したら給与が1.5倍?!海外医師の処世術

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その10

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。 

『海外で働きたい』と思う方は多いと思いますが、長年安定して働くには、雇用条件をしっかりと詰めておく必要があります。
私自身は2013年から海外で働き始め、その後3つの外資系企業を経験しましたが、給料交渉をする機会は何度もありました。しかしながら日本で給料交渉をしたことがなく、正しい給料交渉の仕方を知らずにここまで来てしまいました。
そこで前回からご登場いただいている、ベトナムで人材紹介事業を行うJAC Recruitment Vietnam元社長の加藤将司さんに、外資系企業における給料交渉のやり方や、キャリアの作り方について、アドバイスをしていただきました。

写真

ベトナムにて加藤将司氏(画像は筆者提供)

 グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。
 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。
 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。
 前回に続き、海外における人材採用の知見をもつ加藤将司氏がご登場。中島先生と共に、海外医師のお金事情について赤裸々に語っていただきます。

海外での「給与交渉」は医師でも当たり前

中島 私は海外でのキャリアをシンガポールでスタートさせました。そのときは「行けばなんとかなるかな」という感じで、特に資金面で準備をしたこともなければ、その国の税制すらよくわかっていませんでした。

 海外では給料は契約時に日本と違って、税込みではなく「手取りいくらか」で金額を示されますよね。

加藤 海外ではだいたいそうですね。

中島 それすらもよくわからないまま働き始めて、次第に少しずつシステムが理解できるようになっていきました。私は紹介会社を介さずに全て直接自分で交渉して契約したので、初めの頃は給料面に限らずいろんなことがよくわかっていなかったんですよね。

 けれど、現地では誰も教えてくれないんです。加藤さんや、同じように働いている日本人の方々に出会って、ようやくいろいろ学ぶことができました。

 私はこれまで海外で2回転職しているのですが、一度も人材会社を通したことがないんです。海外で就職するときに、人材会社を通さないのはあまりにも無謀ですよね?(笑)

加藤 そうですね(笑)。だけど専門職なので、アリと言えばアリなのかもしれません。

 人材会社を通すことの大きなメリットは、金額面での交渉をすべて代理で任せられる点。例えばローカルのドクターの給与はどのくらいなのかといった相場感や、その国で働くうえで税制はどうなっているかというリテラシーの部分などをお伝えできます。

 「給与交渉」は海外ではとてもポピュラーなことで、自己PR や一次面接と同じくらい普通に行われていること。でも日本人には不慣れな方が多いでしょうから、人材会社にやってもらえるというのは大きなメリットではないかと思います。

 また、現地の市場も広くふまえた話ができるので、今のキャリアだけでなく次のキャリアも見据えた上でのお話ができるというのも、人材会社の強みですね。

交渉次第で給料が1.5倍に!?

中島 加藤さんも海外で働きたい医師の転職支援を担当した経験がありますよね。

加藤 はい、何回かありますよ。ヒアリングに苦労したのを覚えています。

 海外での医師キャリアを検討する際、その国ならではの事情を加味したうえで考える必要があります。ベトナムで働きたい場合にポイントとなるのは、「医師としてどんなキャリアを進みたいのか」です。

 診療科にもよりますが、例えば外科の場合、ベトナムでは大きな手術をたくさんできるわけではありませんから、大幅なキャリアアップが望めるわけではないんです。ですので、ベトナムで働く理由が、将来開業をするためなのか、見識を広めるためなのか、どんな理由でベトナム行きを望んでいるのか、まずドクターにヒアリングするのが大変でしたね。

 ベトナムで働くのが合っていたという人は、給与はそこそこで、技術的なキャリアアップが望めるわけではないけれど、「面白そうだから」「将来は海外で起業したい」という理由で転職を希望した先生たちなのかなという印象です。

中島 給与面でいうと、今の私は日本で働いていたときよりももらえています。でも前の職場で最初の契約時に提示された給料は、今の半額でした。それでも試用期間の3ヶ月で、めちゃめちゃ頑張って働いたんです。そのおかげで患者さんから「中島先生に診てほしい」と指名されるほどになったので、私が「他の病院への転職を検討している」と交渉したら、給料がみるみるアップして1.5倍にまでなりました。

加藤 中島先生のように、自分で交渉しながら望んだキャリアを作っていくのは勝ちパターンと言えるでしょうね。外資系企業からみると、ドクターを含む日本人は「ジャパンデスク」と「マーケティング」という位置づけで考えられている。対日本人向けに日本人医師を置きたい、というのもあるでしょうし、ベトナムに限らず新興国では「外国人医師が在籍している」というマーケティングに使用したいという意図もあると思います。

 それに対して最初から高い給料は出ないけれど、海外でキャリアをどんどん重ねていければ、給料は上がっていきます。ただ、中島先生のようにきちんと自分でどんな結果を残しているのかを伝えられないと、給料は上がっていかないです。日本人がよく考える「言わなくても誰かが見ていてくれる」というのは、海外ではまずありません。

海外と日本、医師の給与はどちらが多い?

中島 私は給与などの待遇面の向上ではなく、総合診療医としてのキャリアアップを目指して海外の道を選択しました。海外で総合診療の勉強をしたら、日本に帰って在宅診療医として緩和ケアなどができる在宅クリニックを開業しようかなと考えたからです。

 正直なところ、給料に関しては日本で働いている方がもらえると思います。特に最初のうちは。私のように5~7年くらい働き続ければ、給料アップするチャンスはあると思いますが、2~3年程度と思っているのなら、給料のことは度外視したほうがいいです。

 ただ、自分で経験しながら思っているのは、長期展望を持って海外に来ないと、何をしても失敗するということ。長い目で見た自分の目標やプランをしっかり持って、その都度「将来〇〇をしたいから、今自分はここで▲▲をしているんだ」という風に、理由付けをしっかりしながら進む方がいいですね。

加藤 「条件・働きやすさ」を重視するなら、当たり前だけど母国にずっといる方がいいです。経済的にも安定して、いろいろな保障もあるでしょうから。

 でも「キャリアプラン」というよりも「ライフプラン」をどう考えるか。海外を選んだときに、その一時は給料が下がったり、医師としてのキャリアが途絶えたりするかも知れませんが、自分が「どこで・誰と・どんなことをしたいのか」、そして子どもがいれば「どんな教育を受けさせたいのか」ということを考えたときに、海外が選択肢の中に入ってくるのではないでしょうか。

中島 そうなんですよね、キャリアプランだけでなく「ライフプラン」も大切なんですよね。子どもの教育環境を考えると、海外を選ぶということもあると思います。私も子どもをインターナショナルスクールに入れて、さまざまな経験をさせたいという思いもありました。

加藤 子どもの教育環境は、お金に代えがたい面がありますからね。

まとめや次回予告

 海外勤務をするなら、長く働いて給料アップを狙うか、もしくは給料面は度外視し自分自身のキャリアプランやライフプランのためと割り切るか――。みなさんはどのように考えるでしょうか。

 次回は海外で働くうえであらかじめ知っておきたい、日本との働き方や考え方の違いについて、さらに詳しくお話を伺います。