医師が知らなかった「日本人医師こそ」の価値とは

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その14

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。 

今回は医者が商社で働くと、どんな役割が求められ、ビジネスにおいてどんな価値を発揮できるのかというお話です。

ホーチミンにある日系医療商社のクローバープラスでアドバイザーに委任していただいたのが、2017年でした。それまでは臨床医として病院やクリニックの中でしか働いたことがなかったので、ビジネスマンと一緒に働くことは僕にとっては大きなチャレンジでしたが、働く中で自分のビジネスマンとしての価値を発見することができました。

この年齢(44歳)になっても自分の価値を発見できるというのは嬉しい驚きで、いつになっても新しいことに挑戦するのは楽しい事だなと、改めて知ることができました。

写真

ベトナムでの展示会で、佐々木氏(左から2番目)とクローバープラスのスタッフ_画像は筆者提供

 グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。

 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。

 前回に続き、海外におけるビジネスに精通するクローバープラス社の佐々木英樹氏がご登場。中島先生と共に、海外の民間企業における医師の働き方や役割について、現地でのエピソードを交えて語っていただきます。

唯一無二「日本人医師」のブランド力とは?

中島 私は基本的にずっと病院で働いているので、コロナ禍の前から、日本にいる佐々木さんとはオンラインでのやりとりがベースですよね。

 案件があるときは外来の昼休みをちょっと使うとか、時間がとれそうなときは午後休をとったりもして対応できる範囲でやらせてもらっています。日本が午前10時ぐらいだとベトナムは午前8時なので、時差も使って朝にミーティングすることもありますよね。フレックスみたいな形で働かせてもらってすごく助かっています。

佐々木 中島先生は臨床医としてのお仕事がメインですから、私たちとしては、プラスアルファとしてできる範囲でやっていただければと思っているので、時間的な制約を設けるつもりはないですね。

 月曜から金曜の中で必ずこの時間で打ち合わせしましょう、とかは全くなくて、中島先生が仕事の合間で5分くらい時間があったら電話する、みたいな感じですね。1週間に1回まとめてではなくて、3日に1回くらいで細かいやりとりがあった方が状況も早くつかめていいですし。

中島 そうですよね。私のところに来た仕事を一回クローバープラスに持って行ってもらって、本当に臨床医が必要なところだけ私が30分パッと入って、あとは進めてもらうことが多いですね。臨床医としての意見や感覚が必要なところに関わる感じなので。

佐々木 私たちは「ベトナムのローカル病院のやり方はこうですよ」というのは自分たちで調べられるので言えます。でも、「じゃあ、それは日本の病院だったらどうなの?」ということについては中島先生にお願いする。

 例えばベトナムの医療機関に対して日本の医療機器を提案するときに、中島先生のように日本の医療現場を知っている方に、「日本はこうですよ」と付け加えていただけると非常に納得してもらえますよ

中島 ヘッドライトとかありましたよね(笑)。

佐々木 ああ、ヘッドライト!(笑)。ベトナムはまだオペ室の設備が整っていないので、無影灯の環境にできるライトを提案したことがありましたね。

 私たちが現地の病院のニーズをつかみ、そのニーズに応えられそうな製品を探して、それを中島先生に見てもらう。「これ使えますか?」って製品を送ったりして(笑)。

中島 実際に使ってみて、「これならいけますよ」とか「これはダメですね」とかやってますね(笑)。ちなみに、私も外科分野(泌尿器科)出身なのでわかるんですが、外科医ってほかの医師から「この機械すごいんだよ」「こんな風に使うといいんだよ」って実演販売されると弱いところがあるから(笑)、実際に医療機関へ出向いて実演することもたまにありますね。

佐々木 やっぱり日本人の医師が実際その機械を触っていると、その商品自体の信頼度が一気に上がるんですよ。「日本人もやっぱり使うんだ!」って。それくらい、ベトナムでは日本人医師にブランド力がありますよ

面白い!臨床の感覚がビジネスに活きた瞬間

中島 2020年2月だったかな。ベトナムに新型コロナウイルスが入ってきたとき、ホーチミンで佐々木さんと一緒にご飯を食べながら、「絶対パルスオキシメーターの需要が高まるよ」って騒いでいましたよね。今買い込んだ方がいいって。肺炎系だったら絶対酸素濃度は計るだろうって話をして。

佐々木 そうでしたね。あれ、あのときメーカーに聞いたら、中国からものすごく引きがあるって話だったので急いで日本に電話したら、中国の会社がもう押さえていた。そこはやっぱりすごく早かったですね。私たちが実際に確保できていたら、今頃は大きなビジネスになっていたかもしれませんね。

 ちなみに、コロナの前から日本製のパルスオキシメーターを取り扱っていますが、日本の製品は、精度はとてもいいけど価格が高すぎて、安い中国製におされてしまうので、海外に出ることは残念ながらないですね。日本は医療機器においてもガラパゴス化してしまっていると思います。

中島 臨床的な感覚がビジネスに活かされるのは、民間企業で働く時に感じる面白さでもありますね。特にCOVID-19はグローバルな感染症なので、中国でどんな状況になっているかを押さえておけば、次にベトナムで何が起こるかが予想しやすかったです。

 同じことが他の疾患の臨床現場でも言えて、中国で昔導入されたものが20年後ベトナムでも導入されるようになるとか、30年前に日本で起こったことが今ベトナムで起こるとか、流れが少しずれて来るんですよ。今、B型肝炎やC型肝炎が流行っているなら、何年後かに肝臓がんが増えて食道静脈瘤が増えるはずだからそのための準備が必要だよねって、必要なプロダクトが予測可能なんです。日本で起こったことがこれから起こるんでしょって考えられる。

 私は日本にも中国にもいたので、来るタイミングがなんとなく見えるんですよね。「タイムマシンモデル」と言って、過去の他国の状況と照らし合わせることで、次に必要となる製品やソリューションを先回りする戦略がありますけど、ベトナムの状況と日本や各国の状況を比べて商機をつかむのは、すごく面白いと思います。

佐々木 「何年後かにはこうなるだろうな」って中島先生が見えているものをアドバイスいただけるのはとてもありがたいですね。

医師も気づいていなかった
「医師としての価値」

佐々木 中島先生に私たちの会社で働いていただくようになってよかったことはいろいろありますが、臨床的な知見や知識を得ているのはもちろん、それ以上に、安心感というか、仕事に対して前向きに取り組んでみたいと思えるようになったことが大きいんですよ。

中島 そうなんですか?初めて知りました(笑)。

佐々木 ええ。特に政府関係の案件とかはまさにそうです。私たちの会社にはジェトロ(日本貿易振興機構)経由でそういった相談が持ち込まれるんですが、昔は、自分たちだけで話していて「これって本当にどうなんだろう?単なる我々の感想じゃないか?」と臆してしまうところがありました。政府の案件はやはり固いので安易に「はい、やりますよ」とは言いにくいですから。

 でも今は、中島先生へ事前に相談することができるし、この分野は中島先生に助けてもらおうとか、中島先生に補ってもらえるようになったことで、今まで「そこまでは…」と思っていた部分にも踏み込めるようになりました。ポジティブさが全然変わって、「頑張ってみよう」という気が起きるようになったし、実際に「できます」って言えることが増えてスタッフの自信にもつながっていると思います。

中島 話をうかがって、ものすごくびっくりしました。私のいいところは、現地のスタッフの方々と、ローカルのマニアックなところへ一緒にご飯を食べに行けることぐらいかなと思っていたんで(笑)。

佐々木 それも非常に大事ですよ(笑)。私はありがたいです。

中島 実はクローバープラスに勤める前、いくつか副業先を探したんですよ。進出支援のコンサルティング会社とか、それなりに名のあるところとか商社などに行って、「こんなことできますけど雇いませんか?」って回ったんですが、そういう人材が今までいないから使い方がわからないという感じで、どこにも雇ってもらえず。

佐々木 私たちからすると、「先生いいんですか?!」みたいな感じでしたよ(笑)。

 ベトナム社会のニーズとしては、中島先生に臨床医として働いてもらうことが一番大事だと思ったので、そこは柱として、それ以外のプラスアルファで、ベトナムのため、日本のために頑張りましょうと思いながらご一緒していますね。

まとめや次回予告

 民間企業での仕事の進め方や、他のスタッフに与える医師の影響力など、海外での副業のリアルに迫ってみました。読者の先生方も、副業のイメージが膨らんだでしょうか?

 次回で佐々木氏との対談も最終回。今後、医師が海外の民間企業で活躍する可能性について考えていきます。