外国人患者が実は見極めている、○○できる医師

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その18

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。 

前回、前々回の記事に引き続き、佐々江龍一郎先生とレニック・ニコラス先生にご登場いただきました!。
今回は特にお二人の海外での経験を活かした、日本にいる外国人患者の診療に関する話題です。
国際診療を行なうにあたり、外国人患者から求められるニーズや、必要な力について語っていただきました。

外国人診療に関わる方は是非ご覧ください!

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ロンドンの診療所メンバーと佐々江先生(左から1番目)_画像は筆者提供

 グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。

 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。

 前回前々回に続き、佐々江龍一郎先生とレニック・ニコラス先生がご登場。国際診療科の医師としてもご活躍される両先生と、国際診療に求められるニーズや、外国人診療で必要な力について語っていただきます。

日本の外国人患者が、
実は医師に求めていること

中島 先生方は、総合診療科との兼務で国際診療科の医師として、日本在住の外国人も診ていらっしゃいます。国際診療科での仕事内容を教えていただけますか?

ニコラス 外国人を対象に英語診療を行い、総合診療科と同じようにかかりつけ医として、患者さんのいろんなニーズに応えています。もっと言うと海外のGP(General Practitioner:総合診療医)の強みである患者さんとの信頼関係の構築と全体的な健康管理、日本の専門医のレベルの高さ、医療レベルの高さを両立させることを目指しています。

中島 受診される外国人の患者さんが求めるのは、やはり、前々回お話しいただいたような海外のGP的なかかわり方ですか?

ニコラス そうですね。年齢、症状に関わらずなんでも相談できるかかりつけ医としての役割が求められます。外国人が受診する時は、耳が痛くて来ていたとしても、耳の治療がうまくいくかどうかだけじゃなく「この医師は良い医師か」をチェックしていますよね(笑)。誰でもいいから耳を治してほしいというわけじゃなくて、信頼できる医師を探している場合が非常に多いです。

中島 耳鼻科に行った方がいいという価値観じゃなくて、自分の健康をサポートしてくれる医療者と出会うために診察を受けている点が、日本の患者さんとは全然違いますね。

佐々江 例えば日本人でも、外国のGP制度に慣れると、帰国後に「あれ、かかりつけ医がいない、どこに行こう?」となることもありますよ。アメリカ在住だった日本人の方が、信頼できる医師がどこにいるかわからなくて当院の外来に来た、ということもありました。

 かかりつけ医が機能している国に住んでいた日本人が日本へと帰国したら、自然と信頼できるかかりつけ医を探すという変化が面白いですね。

中島 私が以前いた病院では、日本人患者さんたちに、「まず海外に来たら、軽い症状でいろいろ病院を回って、信頼できる医師をみつけてください」って指導していましたね。

ニコラス まさにそういう感覚です。日本だと、医師というより医療サービスを求めている感じがありますよね。湿疹は良い皮膚科に行けば治してくれるだろう、マクドナルドでチーズバーガーを頼むとどの店舗でも同じチーズバーガーが出てくる、みたいな(笑)。外国人の場合は、信頼関係を作れる医師を探すことから始まりますね。

外国人特有の“カルチャー”理解の難しさ

中島 外国人患者さんを診る時、どんな点に苦労されていますか?

佐々江 外国語での診療だけでなく、外国人特有のカルチャーに対応することが求められるので難しいですよね。

 例えばペインコントロールもそうで、外国の方って自己表現が豊かだから痛みをはっきり訴えるんですよ。だから痛みへの対応の優先順位は高い。

 でも日本人は逆に我慢しますよね。日本に来て、モルヒネ系の麻薬やオピオイドの使用量がとても少ないことに驚きました。

 外国人患者さんに対応するには、こうした文化や医療背景が異なることへの理解や、ある程度海外での臨床経験が必要だと思います。日本の医療では、まだ対応ができていないところがたくさんあるので、そこを埋めていくのが国際診療科の宿命だと思ってますね。

ニコラス 考え方の違いで言うと、外国人患者さんが求めているのは、ゆっくり話を聞いてくれる先生です。でも日本の保険制度ではなかなか難しいですよね。私がクリニックを始めたらすぐ潰れますよ(笑)。

中島 私は海外に来てから、GPの考え方をフランス人やイギリス人の先生に習ったのですが、「とにかく30分話せ」と言われました。その中で、問診だけで診断をつけるテクニックを身につけたんですけど、これ日本ではできないですよね。おっしゃる通り時間がかけられませんから。

ニコラス オーストラリアで医師が1日に80人以上の患者さんを診ると、政府から手紙が来ます。「あなた診すぎだからやめなさい。もっとゆっくり丁寧に患者を診てください」って(笑)。検査も、医学的には必要ない場合にGPとしてMRIを撮りたいとか腫瘍マーカーをとりたいと思っても、政府は正当な理由がない限りお金を出してくれません。医師として患者さんに対し自由に使えるのは時間だけであって、エビデンスやガイドラインなどに準じて正当化できない医療資源はなるべく節約されるようにできています。制度のデザインの違いは大きいですね。

医師に求められるのは
「何でも知っていること」でなく…

中島 外国人患者が求める医師は、総合診療医としての役割にも通じます。現状、総合診療や外国人の診療に向き合う際に必要となる力はなんでしょうか。

佐々江 もちろん専門医は必要だと思います。でも、「私の専門ではない」と切るんじゃなくて、ある程度ほかの科の疾患に関しても興味を持っていくべきだと思うんですよね。

 例えば、尿路感染だから泌尿器科に任せましょうというのではなくて、自分の興味に貪欲になっていろんなことを学んだり挑戦したりする努力は必要だと思います。

 目標となる先生をモデルにして学んでいく姿勢も大切です。私も指導医の先生の背中を見て知識を身につけましたし、良い先生を見つけて学んでいくのが賢いのかなと感じますね。

 専門性は持ちつつジェネラルのマインドを身につける努力も、必要じゃないでしょうか。

中島 なるほど。ニコラス先生はどうですか?

ニコラス ジェネラリストというのは、幅がものすごく広いです。同時にたくさんの診療科の疾患を扱うようになると、毎日自分の知識のなさを感じるような人生を送っています。これも知らない、あれはなんだったっけ?みたいな(笑)。

 ちょっと前までは、医師は常に答えを知っているべき、学生のうちに知識を詰め込んでいつでも答えを引っ張り出せる人間でないといけない、と言われてきましたが、最近はUpToDateのようにいろいろなリソースが身近にあります。

 日本とオーストラリアの医療文化を比べたときにすごく感じたのは、そういう調べることに対しての考え方の違いです。オーストラリアでは、医師は『答えを知る人』ではなくて『答えはどこで見つかるのかを知る人』。医師はなんでも知っておく必要はないという考え方です。

 患者さんを診つつ疾患の情報や最善の治療方をその場で調べるというのが、今後の、特にジェネラリストに必要な習慣だと思います。

中島 うちのクリニックでもUpToDateは使っています。なぜかというと、クリニックで働く医師はみんな違う国から来ているので、ローカルルールの部分でところどころ違うんですよ。例えば日本だとこうやってるとか、中国ではこうだとか、国ごとの「普通」「常識」が異なるんです。そこで、UpToDateをみんなで見る教科書、共通認識として使っています。

 あとは、医療情報は日々更新されるので、覚えておくことにほとんど意味がなくて。いかに一瞬で情報を引っ張りだせるかが重要ですね。私は海外に来てから教科書全部捨てました(笑)。

まとめ

 国際診療科での仕事をご紹介すると共に、日本人と外国人が求める医療の違いや、その違いを背景に総合診療医として必要となる力について考えていきました。

 次回で佐々江龍一郎先生、レニック・ニコラス先生との対談も最終回。今後、総合診療医として目指す姿や展望について考えていきます。