出産日は占いで?海外医師が遭遇した、驚きの国民性

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その20

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。 

今回ご登場いただくのは、私の大学の先輩で、シンガポールの日系クリニック「日本メディカルケア」で働く産婦人科医の鍋島先生です。

実は私の娘はシンガポールで生まれました。シンガポールは医療水準が高いからと安心していたのですが、海外での出産・子育ては中々大変なものです。当時のの体験談や『海外で日本人が出産するとはどういうことか?』について、これから4回に分けてご報告します。

写真

(シンガポールにて、鍋島先生(左)と中島先生(右)の医師同士の集い_画像は筆者提供)

帝王切開はできない?
現地の日本人産婦人科医

中島 最近、海外での出産が増えている印象がある中で、実際にシンガポールで多くの出産を手がけている鍋島先生にお話をうかがいたいと思っていました。実は鍋島先生は、私の大学の先輩なんですよね。

鍋島 ええ、大学時代には面識はありませんでしたが1年かぶってるんです。私が前職であるシンガポールのラッフルズクリニックで働き始めた1年後に、中島先生もシンガポールで働くことになって、大学の縁もありお会いしました。

中島 懐かしいですね。では、鍋島先生のご経歴と現在の仕事について教えていただけますか。

鍋島 秋田大学を出てから、東北地方でずっと産婦人科医として働いていました。機会があってシンガボールに来たのが10年前です。最初はラッフルズジャパニーズクリニックで4年間勤務し、今働いている日本メディカルケアに転職してもうすぐ6年になります。

 シンガポールでライセンスを取る時は総合診療医としてで、いわゆる産婦人科の専門医としての資格ではありません。そのため原則、外来業務のみで手術や出産には立ち会えません。しかし、日本の産婦人科医の専門医を持っているということでシンガポール政府と個別に交渉して、特例として自然分娩であれば私がとりあげられるようになりました。一方で帝王切開や、婦人科の入院が必要な手術などは、必ずシンガポールの専門医と一緒にやることになっています。

 したがって、経腟分娩の場合、医師は私一人ですが、帝王切開が必要になった場合はスーパーバイザーである専門医の先生に来てもらって一緒に行います。

国民性の違いは出産スタイルにも

中島 鍋島先生は日本とシンガポールでたくさんのお産に立ち会われていますが、どのような点に違いを感じますか?

鍋島 原則、健診のシステムはそんなに違いはありません。数週間ごとにエコーを見て、妊婦健診があって、お産があって。ただ無痛分娩がほとんどです。私がいた東北地方では、無痛分娩はほとんど普及していないので、すごく違いを感じる部分でした。

 もちろん、シンガポールでも患者さんに自然分娩がいいか無痛分娩がいいか希望を訊くんですが、ほとんどの人が無痛を選びますね。

中島 計画出産も多くないですか?日本ではあまり行わないイメージですが。

鍋島 確かに、シンガポール人は暦にすごくこだわっていて、良い日に産みたいと考える方が多いですね。風水の人に出産に良い日取りを占ってもらうんです。何日の何時がいいまで(笑)。それに合わせようとすると、もう帝王切開するしかない。

 私は医療的に必要でない帝王切開はするべきじゃないと思っているので、そのような依頼は引き受けませんが、シンガポールでは計画出産が好きな先生が多いので、事例としては結構ありますね。日本の辰年にあたるドラゴンイヤーは、お金持ちになるといわれている年なので出産も多くなりますよ。

 対して日本では、自然志向が強く、自然なタイミングでの出産を望む患者さんや医師が多い印象があります。

中島 なるほど、お産以外のケースや不妊治療での診察・治療の違いはありますか?

鍋島 まず不妊治療についてですが、シンガポールはいわゆる高度生殖医療、人工授精といわれる精子や卵子を使う治療は、登録した施設でしかできません。私のクリニックでできるのは不妊の検査をしたり、卵の育ちを診たり、薬を使って卵を育てたりする治療ですね。スーパーバイザーの先生と一緒に手術をすることはありますが、体外受精や人工授精をする場合は不妊治療の専門の施設を紹介します。日本でも体外受精は体外受精専門の施設に紹介することが多いと思いますがそれと一緒です。

 あと、日本で治療していた産科合併症の妊婦さんが、シンガポールで治療継続となった場合の診療なども行います。シンガポールは医療先進国で医療水準が日本と変わらないので、どの合併症であろうと基本的には診られます。たまに、日本とシンガポールで使える薬が違うことがあるので、その場合は薬を現地で使える薬に変更するくらいですね。

中島 シンガポールの医療水準は高いですよね。産婦人科の領域はどうですか。

鍋島 産婦人科に関しては五十歩百歩、似たような感じだと思います。でも、日本は独自の進化を遂げていて治療方針が日本独自のものが多いのに比べ、シンガポールはグローバルスタンダードに準拠している感じですね。

 シンガポールの医師はシンガポール内で専門医教育をするのではなく、基本的にはアメリカやイギリス、オーストラリアなどで専門医の資格を取るので、かなり国際標準に近いやり方です。日本の医師は海外に出ることが比較的少ないので、日本独自のやり方が多くなるんだと思います。

「胎盤を持って帰りたい」理由に衝撃

中島 私の妻もシンガポールで出産したんですけど、その時にへその緒を食べるとかヤシの木の下に埋めるとかっていう話を聞きました。これは独特の風習でしょうか?

鍋島 へその緒ではないですが、胎盤なら日本でも木の下に埋める話はありますよ。たぶんアジアの風習ですね。胎盤を食べたり、漢方薬にしたりしますね。

中島 シンガポールって、中国、マレー、アラブ、インド系の人がいますけど、それぞれの国によって文化が全然違いますよね。そういうことも影響するんでしょうね。

鍋島 習慣が違うんでしょうね。胎盤に関してはローカルルールが結構多くて、中国人だからこう、というものでもなく、さらに細かい違いがあります。

 先日遭遇した事例ですが、シンガポール人の旦那さんと日本人の奥さん夫婦がいて、旦那さんが胎盤を持って帰りたいという話だったので、何に使うか聞いたら「お父さんが中国医療の医師で薬に使いたいと言っている」と。さすがに驚きました。嫁の胎盤を薬にして良いのかと(笑)。

中島 日本ではなかなか聞かない理由ですね(笑)。

まとめや次回予告

 シンガポールでの医療体制や出産スタイルや患者、家族のニーズについて、日本との違いを切り口に探っていきました。次回は、在留邦人に多い駐在員の出産事情に注目し、その特徴や実際の対応について事例をもとにご紹介します。