コロナ禍で医師と大使館がタッグ! 入国プロジェクトとは?

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その27

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。

日本国内と同様、あるいはそれ以上にベトナムにいる日本人もコロナ禍で様々な苦労を経験しました。
感染すると施設に連れていかれたり(外国人だから特別扱いというのは一切なし、当然日本語のサポートは望めない)、家から数週間一歩も出れなかったり、実名報道されてしまうなど、様々な苦労がありました。

また仕事のためにベトナムに来ているのに、コロナのせいでビジネスが思うように進まず、大変な損害が出たりもしました。そしてそれは未だに尾を引いています。

このようなコロナ禍で起きた様々な危機を、ベトナムの日本人コミュニティが乗り越えるため、現地の日本人医師がどのように関わったのか、ベトナムの日本国大使館に駐在する岡部大介公使をお招きしてお話を伺いました。

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(画像:筆者提供)

 グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。

 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。

 今回ご登場いただくのは、ベトナムの日本国大使館に駐在する岡部大介公使です。コロナ禍で起きた危機を乗り越えるため、日本人医師と日本国大使館がどのようにタッグを組んだのか、プロジェクトの全貌に迫ります。

コロナ禍でベトナム行きの便がなくなり…
現地で起きていたこと

中島 今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって発生した邦人社会の危機に対して、私たち日本人医師や日本国大使館がどのように協力してその危機を乗り越えたか、ぜひアーカイブできればと思い企画させていただきました。今回のようなパンデミックは100年に1回起こると言われていますが、SARSやMARSのような中規模なら、10年経ったらまた起こると言われていますので、ぜひ今回の学びを活かしていきたいと思っています。

 まず簡単に、岡部公使のお仕事について教えてください。

岡部 私はベトナムにある日本国大使館で経済班の班長をしております。普段の業務としては二つの大きな柱があります。

 一つは、ベトナムに進出中の日本企業への支援です。ベトナムには2万人以上の日本人が住み、2000社超の日系企業が進出しています。

 もう一つは、ベトナム全土で鉄道や高速道路などインフラを建設したり、日本の専門家から技術を移転したりするなど、多岐にわたるベトナムへの支援事業です。日本は、ベトナムにとって最大のODA(Official Development Assistance:政府開発援助)供与国です。

 また現在は、コロナ禍における在留邦人の皆様への支援や、日本から入国する方への支援がもう一つの大きな仕事として加わりました。

 日本人医師と大使館のつながりでいいますと、パンデミック以前は大使館所属の医務官が、在留邦人の医療環境などについて現地で働く日本人医師と情報交換をしていたようです。

中島 そうですね。それまでは、岡部公使など大使館の皆さんと大掛かりなプロジェクトをやるなんてことは想像していなかったです(笑)。プロジェクトは大きく二つありますが、まずはベトナム入国プロジェクトについて振り返っていきましょうか。

岡部 中国にてCOVID-19の流行が始まった影響で、2020年3月、ベトナムと日本を結ぶ定期商用便が停止しました。COVID-19流行前の2019年は、年間95万人の日本人がベトナムを訪問しており、観光だけでなく、ビジネス目的の方も相当程度含まれていましたから、その影響はとても大きなものでした。

 飛行機が飛ばなくなり、ベトナム進出日本企業から、「工場の機械設備の導入やメンテナンスのために日本人技術者の定期的な出張が必要なので、なんとかしてほしい」という強い声が大使館に寄せられるようになりました。加えて、COVID-19流行当初、日本人駐在員で、コロナ禍になってから一時的に日本へ退避した方々から「定期商用便が止まったことでベトナムに戻れなくなってしまい、ビジネスに差し支える」という声も寄せられるようになりました。

中島 日本に帰らせてほしいというのではなく、逆だったんですね。

安全な入国のため、日本人医師が奮闘!

岡部 当時はCOVID-19について、もちろん我々もよく分かりませんでしたので、日本人がベトナムへ安全に入国するにはどうすれば良いか、日々頭を悩ませていました。ベトナム政府は「PCR検査を受けた人なら入国して良い」と言っていましたが、当時、日本はPCR検査の試薬が不足していまして、渡航前にPCR検査を受けてもらう余裕がなかったのです…。

 ベトナム政府もそういった日本側の事情を理解してくれて、当局が指定するホテルで2週間隔離すれば良いということになりました。ただし、だからといって全く対策をしないで良いわけではありません。どうしたらCOVID-19に罹患せずにベトナムへ入国できるか――渡航前の2週間はなるべく出歩かず、自宅にいてくださいとか、空港までの移動経路はどうするかとか、そういったガイドラインを作るところで、中島先生をはじめとする日本人医師の皆さんに手伝ってもらいました。

中島 私はその時ホーチミンにいたんですが、オンライン会議でベトナムの北部と南部の医師、弁護士、大使館の方、領事館の方、商工会の方まで集まった時には本当にびっくりしましたよ。日本人社会が一丸となって動くプロジェクトがあるんだなって。この緊急事態をなんとか乗り越えようという全員の意気込みを感じました。22時からZoom会議とかもありましたよね(笑)。

岡部 ええ、次の会議は0時からというのもありましたね(笑)。

 その後、ベトナム航空にお願いして2020年の5月から臨時便をアレンジしたのですが、その搭乗客のために開催したウェブ上の説明会でも中島先生をはじめとする日本人医師の皆さまに、企画段階から手伝っていただきました。

 また入国後、指定ホテルで2週間隔離され、部屋から一歩も外に出ることができない状況でCOVID-19に罹患した場合の対応や、COVID-19以外の病気にかかった場合の連絡手順や対応などについても、日本人医師の皆さまに相談に乗っていただきながら決めました。今回のプロジェクトでは合計800人ぐらいの方が入国できましたが、幸いにしてCOVID-19に罹患した方は一人もいませんでした。

医師として、ビジネスマンに伝えたこと

中島 私が今回のプロジェクトに参加させていただいたのは、商工会の方からお声がけいただいたのがきっかけです。普段、医師として診療業務などにあたる中で、COVID-19の対応についても以前から相談を受けていたんです。この特別便のミーティングに参加し、企業の皆さんに、入国に向けた医療的な部分のお話をしました。

 その時は、判断材料を渡すというスタンスでやりましたね。「ああしなさい、こうしなさい」ではなく、「コロナはこんな病気でこんなリスクがあって致死率は何パーセントで、こんな方が危ないですよ」という情報を企業の皆さんに提示して、個々に判断してもらうんです。

 日本国内と違ってビジネスのために来られている方がほとんどなので、私の話を聞いてどうするか、リスク&ベネフィットの判断は速い印象がありましたね。とはいえ1年目は、COVID-19が謎の病気だったので、怖いというか、日本人社会の中でものすごい混乱はあったと思います。

まとめや次回予告

 コロナ禍の始まりと共に始動した、大使館と医師らを巻き込んだ大掛かりな入国プロジェクト。次回も引き続きこのプロジェクトについて、ご苦労や感動したエピソードを交えながら深掘りしていきます。お楽しみに。