“個人主義”のアメリカ医師、手術の時はなんと

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その40

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。

今回もシカゴ大学心臓外科に勤務されている北原大翔先生と対談です!
北原先生は留学を志す学生や医療者のやる気を起こさせるYoutubeチャンネル『チームWADA【本物の外科医YouTuber】』も運営されています。その登録者数はなんと14万人超え!

今回は同僚との付き合い方についてお話を伺いました。
一口に外国と言っても、地域や人種、文化が違えば付き合い方もまるで違うということに、あらためて驚かされました!

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職場の同僚と休暇を楽しむ中島先生(左から3番目)

 グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。

 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。

 前回に続き、アメリカのシカゴ大学の北原先生にご登場いただきます。アメリカのチーム医療体制や同僚との付き合い方についてご紹介しながら、日本やアジアとの違いについて、中島先生と共に語っていただきます。

“個人主義”のアメリカ
手術室に入る外科医は、なんと…

中島 今回のテーマは「各国で感じる医療現場での働き方の違い」です。アメリカと日本の違いについてはどのようにお感じになられてますか?

北原 アメリカでアテンディングになると日本と大きく違ってきますね。

 一つは多職種についてで、アメリカは外来診療や入院患者の管理とかを別の職種の人がかなり担ってくれます。そのため外科医は手術に集中しやすい。日本の外科医は、手術して、術後を診て、外来を診て…みたいに1から100まで全部やるところもあるので、なかなか手術だけというわけにはいかないことが多いですね。

 あと、外科医として大きな違いを感じているのは一つの手術に入る外科医の数です。日本では手術室に外科医が大体2、3人入ることが普通です。術者がいて助手が外科医で第二助手も外科医という感じです。

 一方アメリカだと手術室に入る外科医は1人です。PA(Physician Assistant)が助手で、他に助手に入るとしたら、レジデントやフェローが入ります。独立した外科医が2人以上同じ手術に入ることはほとんどありません。

 もちろん何か意見を聞くのはいいと思うんですけど、自分が全部やらなくてはいけないものに対して、同じくらいの知識と技術を持っている医師がいると、人によりますけどやりづらさを感じるときはあります。他の外科医が自分の患者さんの治療方針に対して何か言うこともあまりない気がします。もちろん医師や病院によって違いますが。

中島 なるほど。日本とアメリカではチームのとらえ方が違うんですね。例えば、日本だと100人の患者を3人の医師でみるとしたとき、お互いの患者は全部把握しておくという感じですけど、アメリカは、それぞれの医師がチームリーダーとして各部隊を持っていて、その中でそれぞれが自分の患者を診ていくというような構成ですね。

北原 そうですね、その中に、PAとかNP(Nurse Practitioner)とかがいます。私がメドスターにいた時は、本当に個人商店のように、5人の外科医がいてそれぞれが患者をもっている感じで、他の外科医の患者のことは互いに全然知らなかったですね。

 もちろん病院全体の成績を上げていくために、合併症や死亡例について討論するミーティングとかはありますが、他の外科医の患者に今起こっている症状や状態に対して、別の外科医が「これはこうしたらいいんじゃないか」と言うことは基本的にありませんでした。

中島 それはそれぞれの医師にすごい腕がないと無理だと思っちゃいますね…。私は東南アジアで働いていますが、日本のチーム医療に近い感じで仕事を回しています。隣の部屋の医師の患者についてもどういう状況かは知ってるぜ、と。その先生が休みだったら代わりに診ておくこともできる。私自身は、そういうやり方と相性がいいですね。

職場の旅行があるベトナム、
ランチも別々のアメリカ

中島 チームでいうと、同僚との付き合い方はどんな感じなんですか?

北原 家族を持っている人が多いので、同僚と遊ぼうとか飯食いに行こうぜみたいなのは皆無でしたね。新しいスタッフを迎えるパーティや、年1回か2回ある病棟全体のパーティとか、そういうのに行ったことはありましたけど、COVID-19で全くなくなりましたし。

中島 東南アジアだと、職場のみんなで旅行に行ったことがありますよ。

北原 すごく仲いいですね、それ(笑)。

中島 お話を聞いていると、やっぱりアメリカの超個人主義の部分と、東南アジアの、なんていうか、儒教思想を基にした緩い人間関係みたいなところはすごく差がある感じはしますね。

 逆に今そういう同僚との人間関係の中で、転職先を紹介してもらいたいときは、近づいていくこともあるんですか?

北原 いや、それはしないですね。いわゆるこいつはイイ奴だというのは、仕事上でイイ奴なのであって、例えばこいつと一緒に映画を見に行くと楽しいんだよってことは病院で働くうえでは必要ないじゃないですか(笑)。

 働くうえでこいつと一緒に働くとラクだとか、イイっていうのがあればプライベートで親しくする必要はないと思うんですよね。もちろん最低限とか基本的なものはしますけど。

中島 なるほど。ランチを一緒に食べるくらいの関係なんですか?

北原 それも、ほぼしたことないですね。

中島 ええー-!

北原 外科医同士でランチ食べるってかなり珍しいことだと思いますよ。めちゃくちゃレア。

中島 みんなランチタイムに何食べてるんですか。

北原 普通に病院にある800円ぐらいのランチとか(笑)。

中島 そうなんだ。病院の食堂とかはないんですか?

北原 ありますよ。ありますけど、まず時間が合わないってなりますね。みんな手術に入っているし、バラバラに外来していたりするので。一緒に食べようぜって言うこともあんまりないし、一日生活していて他の外科医を見ない日もざらにありますね。

中島 そうか、チームとして独立しているから、そもそもそういう機会がないよねっていうことなんですね。じゃあ例えば自分のチームのPAとかそっちの方と飯食う感じですか?

北原 いや、それもないですね。手術も一緒に抜けるわけじゃなく、私が抜けてもPAは残って手術を続ける場合もあるし、NPは外来や病棟で患者さんをみてたりするからそれも別です。一緒に終わって、次一緒にここまで時間あるからご飯食べようかっていうのはあんまりないですね。

中島 そうか、私も北原先生の感覚に比較的近くて、飯は別々に食えばいいじゃん、って感じなんですけど、うちのシンガポーリアンとか東南アジア人って誘いに来るんですよ。外来の時間が終わったら、診察室をコンコンってして、「サンドウィッチ食いに行こうぜ」みたいな(笑)。2日に1回くらいありますね。うまい日本料理屋とかに連れていけって言われることもあって、昨日の夜も行ったんですけど。そこは、アメリカとの差や違いを感じますね。

北原 面白いですね(笑)。

銃社会ならでは 夜中に銃傷の患者が…

中島 アメリカは銃社会といわれますが、治安面などで日本との違いを感じる部分はありますか?

北原 日本はすごく安全だなって感じはしますね。アメリカでは銃を持った人が病院に入ってきたらどうするか、という模擬訓練を3、4ヵ月に1回はやっていて、部屋にこもって隠れる、みたいなことをやるんですが、日本では絶対そんな訓練しないですもんね。

 聞いた話だと、シカゴでは銃創で運ばれてくるケースが一晩に9件もあったりすることがあって、そんなに銃の事件が起きているんだって思ったりはします。もちろんそういった事件は危険だといわれる場所で起きていて、そこに行くことは絶対ないんですけど、とはいえ、同じ地域に住んでいるので、何かの拍子で事件に巻き込まれる可能性はもちろんあるので、日本の方が安全です。

中島 ベトナムでも銃から逃げる訓練はやらないですね。ていうかそもそも訓練みたいなのは、火災訓練みたいなもの含めてほとんどないですけど(笑)。犯罪でいえば、起こったとしてせいぜい置き引きやひったくり。

北原 いわゆる軽犯罪的な。命に危険がある感じじゃないですね。

中島 たまにナタを振り回す人とかはいるみたいですけど(笑)。銃はないですね。

まとめや次回予告

 アメリカの心臓外科医としての仕事について、チーム医療の観点からご紹介しました。同僚との日常の付き合い方や銃から身を守る訓練など、アメリカの病院での日常がリアルに思い浮かんだのではないでしょうか。

 次回は、気になるアメリカでの報酬や労働時間などについて、具体的な事例を基にご紹介していきます。お楽しみに!