海外で「日本人医師の優位性」が揺らいでいる? その訳

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その46

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。

今回でベトナムで企業の海外進出をサポートする「株式会社VIT Japan」の代表取締役であり、有名なベトナム在住日本人Youtuberでもある猪谷太栄氏との対談も最終回。

今回は、ベトナムの医療機関のユーザーとしての立場、様々なビジネスの海外進出を支援してこられた立場から、
海外で求められる日本人医師像や、今後の市場ニーズなどについて、分析をしていただきました。

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円安の今、海外への“出稼ぎ”はアリ?

中島 最後はベトナムでの生活や、今後のベトナムにおける医師の働き方について話をしていけたらと思います。最近だと円安が取り上げられることが多いですが、影響を感じる部分はありますか?

猪谷 ビジネスでいえば、日本の製造拠点の役割を担うベトナムの企業は、親会社も含めた日本企業がお客様になるんですけど、納品価格が一気に4割高になったりしていて大変ですよ。

 いち駐在員としていえば、手当はドルや現地通貨で計算するので、生活面では為替の影響は受けていないですね。

中島 私も報酬はドルベースなので、マイナスの影響は受けていないですね。ちなみに円安ドル高なので、海外で出稼ぎしようみたいな話題が出てきたりしますが…。

猪谷 ノマドワーカーみたいな感じですかね? 厳密に言うと結構難しいですよね。

 183日ルールという短期滞在者免税制度があるんですけど、183日以上滞在した国に対しては納税義務が発生するので、例えば200日間ベトナムにいると、少なくともベトナムに所得税を払わないといけなくなる。10万ドル稼いでいたら所得税はMAXまでいきますね。

中島 10万ドルとなると、大体1,300万円くらいですか。医師だったら稼いじゃうかもしれませんね…(笑)。場合によっては日本にいるよりも収入が低くなるかもしれないので、出稼ぎはなかなか厳しそうです。

 この辺りのことってやっぱり専門的な知識がいるので、猪谷さんみたいな専門家の指南なしに、下手に動くのはやめておいた方がいいですね(苦笑)。

揺らいできている、日本人医師の優位性

中島 そもそも日本人医師は海外でどういう価値があるか、という点についてビジネスマンの視点から伺ってみたいのですが、いかがでしょうか。

猪谷 ベトナムの事情でいうと、今までは日本語が話せる医師というだけで優位性があったものが、英語や他の国の言語が話せるベトナム人医師が増えてきたりしているので、その優位性が揺らいできている可能性はありますね

中島 外国人医師は必要ないんじゃないかというニュースも最近出ていましたね。英語しか話せない医師だと手術でどんな悪さをするかわからないから、ベトナム語を話せる医師じゃないと医師免許を登録させない、という内容でした。外科的な手術の部分だけライセンスを求めるようにするかもという程度でしたが、よくよく考えてみると、わざわざ外国人の医師を呼んでお金を渡す必要はない、という発想はわかる

 日本の人口はこれからどんどん減っていくし、日本経済も縮小していくのはわかりきっているのに、日本語に注力すること自体が下り坂を駆け上がる構造ですよね。

猪谷 海外で医師としてすでに活躍されている方は違うかもしれませんが、医学生や若手の方なら、医術を極めることもですが、言語能力を高めておくのも実は大切だと思いますね。

現地で本当に求められている医師とは?

中島 長く海外に住まれている猪谷さんからみて、現地ではどんな医師が求められていると思いますか?

猪谷 こっちではいろいろと思いがけないことが起きて臨機応変に対応しないといけないので、患者が今どういう状況なのかを的確に聞き取ったり把握したりできる、コミュニケーション能力をしっかり持っている先生がいてくれるとありがたいですね。

 日本の医師は大学で優秀な成績をおさめて専門性を高めてこられると思うんですが、私たちが求めているのはそこじゃなくて。ちょっとたとえに困りますけど、フランスにまで留学されて、フレンチの三ツ星シェフのところで3年修行してこられた人なんだけど、いや、こっちが作ってほしいのは、そういうのじゃなくて街中の定食屋のほっとするような料理やねん、と(笑)。そういうすれ違いが起きてしまうので。

中島 確かに、海外で働く場合、患者や地域のニーズをどうつかむかは重要ですね。地域のドクターであることを自覚して地域社会に入り込んでいくことが必要になってくると思います。

 日常の臨床をやるうえでも、あの地域だからこの病気が流行っているんだなとか、猪谷さんからビジネスマンの生態や動向を聞いて、そういう生活をしているんだったらこういう病気は絶対にあるだろうから、そのスクリーニングもしようとか、自分の持っている臨床知識と併せて現場に適応させる作業が海外では必要だと思います。

 あらためて、これからも日本人村の一員として情報交換させていただいたり、お互い協力していけるとありがたいです。今日は現地ならではの貴重なお話をありがとうございました!

まとめや次回予告

 今回は、ベトナムでの円安の影響や、今後海外で求められる日本人医師像・身につけたい能力について、中島先生と猪谷氏にお話をうかがいました。

 次回からは、30代若手医師の米崎駿先生がご登場。医学生時代から、北朝鮮への渡航やガーナへの留学など海外で多彩な経験を積まれてきた米崎先生と、医師キャリアの可能性を探っていきます。お楽しみに!