つらい…接待天国のベトナムで、様々な性感染症を診る医師
グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その44
日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。
今回もベトナムで企業の海外進出をサポートする「株式会社VIT Japan」の代表取締役である猪谷太栄氏にいろいろお話を聞いていきます!
今回は、海外で働く出張者や駐在員の、現地での接待の様子や違法薬物使用への巻き込まれ、それらに引き続いて生じる健康問題などを中心にお話しました。
接待が多い国ならではの性感染症事情
中島 猪谷さんも仕事柄目にすることが多いのではないかと思いますが、ベトナムってすごく接待が多いですよね。日本だと今は接待ってあまりやらないと思うんですが、ベトナムでビジネスを進めるには、「食わせる、飲ませる、握らせる、抱かせる、威張らせる」のいわゆる「五せる」に代表する、日本の昭和のような接待が求められる機会がまだ多いからか、性病やアルコール中毒もよく診ますよ。あと日本にいる時に比べて、生活習慣もすごく乱れますね。
猪谷 前回お話した私が肺炎になったころは、月20回以上会食が入っていたんですよ。もちろん夜に。2時とか3時まで付き合うことが何晩も続いていました。今年はコロナの影響でそこまでじゃなかったですが、例年であればそうなりますね。
中島 ホーチミンにいたころは、ホーチミンの歓楽街にある風俗店に、毎週のように誰かを連れて行かなきゃいけないとか、そういう話を駐在員の方からよく聞きました。
ベトナムの風俗は非合法で、何の管理もされてないですよね。性感染症的な管理もないし、薬物中毒も多いと言われていてC型肝炎やHIV、結核など、いろんな感染症の巣窟になっているといわれています。
ベトナムではスーパー淋病と呼ばれる、日本ではお目にかからないような多剤耐性化した淋菌がみつかることがあります。何例か治療したことがあるんですが、本当に効く抗生物質がない。なので、ベトナムの風俗はかなりリスキーというか怖い状況ではあるんですよね。ほかにもクラミジアとか尖圭コンジローマなどありとあらゆる性感染症を診療してきました。
猪谷 耐性菌の治療はどんなふうにするんですか?
中島 基本通りに培養検査をして、それを参考に治療薬を決定します。ただ結果を見て、これは切り落としたほうがいいのではないかと一瞬思ったりしたときもありましたけど…(笑)。
具体的には、東南アジアの性感染症のガイドラインがあってそれを見たり、論文を見たり。日本の教科書を見るだけじゃなく、英語で書かれている世界的なペーパーとかWHOの報告を見たり、本当に世界の最先端のガイドラインを見たりしながら対応していますね。手探りになることもあるので、その辺はわりとつらいところです(苦笑)。
駐在員はつらいよ
中島 どこの国や地域の駐在員も同じようなことで悩んでいますよね。シンガポールでも中国でもそういう人は診ましたから。駐在員や出張者が海外に来たらはっちゃけるのは一緒なんじゃないですかね。
猪谷 そうですね。風俗が目的で出張しに来ているんじゃないかと思われるような人たちは多いですよ。
私も多いときには夜の付き合いとかも含め、月29回予定が入ってることがありました。ベトナムのカラオケって、日本のキャバクラみたいなものなんですが、同じ日・同じ店に2回行ったことがありますよ。
夜8時半にお客さんと行って10時くらいまで付き合ったら、別のお客さんから「猪谷さん今からカラオケ行きたいから付き合ってよ」と連絡がきたんです。
慌ててカラオケ店のマネージャーの女性に連絡して、「さっきまで店にいたことは一切言わないでほしい。皆さん今日は来てくれてありがとうございますと言ってほしい」とお願いして(笑)。マネージャーと全部打ち合わせをして何食わぬ顔をして対応し、夜2時くらいにやっと帰る、みたいなそんな感じでした。
中島 そのカラオケ店は日本語が通じるんだから、自分たちで勝手に行けばいいと思うんだけど…。
猪谷 そうなんですけど、我々とコミュニケーションがしたいという部分もやっぱりあるんですよ。
中島 なるほど、そういうこともあるのか。
現地の医師が「また違法薬物か」
中島 急性アルコール中毒の患者もちょくちょくいますし、覚せい剤で担ぎ込まれてくる人も診たりしますね。何か騙されて薬物を吸わされてぶっ倒れてきた人とか普通にいるんですよ。
ベトナムはゴールデン・トライアングル(世界最大の麻薬密造地帯)から麻薬が流れてくる場所だから薬物中毒も多い。わりとポピュラーというか、道端に注射器とか転がっているんで(笑)。
猪谷 うん、ありますね。そういえば先日聞いた話なんですが、ホーチミンの日本人街があるレタントン通りで、間違って通常よりも濃度が濃い笑気ガスが一時期売られていたらしいんですよ。ちょっとハイになるレベルじゃなくて、ぶっ倒れてしまうレベルの濃度だったみたいです。ぶっ倒れるところまでいかなくても、吸った以降の記憶が次の日まで一切ない人が続出していたと聞きました。
中島 私はもともと泌尿器科ですから性感染症は専門ではあるんですけど、違法薬物に関してはベトナム人の医師の方が「また薬物か」みたいな感じで診慣れているので、クリニックで協力して診察したりもしています。
猪谷 確かに慣れていそうな感じありますね(笑)。
中島 ホーチミンにいた時は、自分の専門を活かして、性感染症の患者をかなりの数診ましたね。クリニックの立地があまりよくなかったので、集患の戦略として性感染症の治療ができることを積極的に宣伝していたんですよ。ホーチミンは歓楽街もあってそういう患者が多いことは予想できたので。
今働いているハノイのクリニックは高級住宅街のど真ん中にあるので、性感染症の患者を診ることは大分少なくなりましたね(笑)
道端に落ちていた、薬物注入後と思われる注射器(画像は筆者提供)
まとめや次回予告
現地のエピソードを通じて、接待事情から性感染症・薬物中毒まで、ベトナムならではの特殊な事例をご紹介しました。文化の違いが臨床にも表れているのではないでしょうか。
次回は、新型コロナウイルス感染症の流行によりロックダウンが起きる中、どのようにその苦難を乗り越えたか、医療とビジネスの両面から探っていきます。お楽しみに!