ベトナムのコロナウィルスの第一波についてまとめ

メヂカルフレンド社 『看護展望』さまに依頼を受け、看護師さん向けの雑誌に寄稿しました。
看護展望編集部の方には、ベトナム邦人社会に対して情報発信をする意義を理解していただき、「原文」での情報発信についてご許可をいただきました。多大なる配慮に感謝いたします。
つきましては非営利目的にのみご利用ください。

2020年に新型コロナウィルスのパンデミックが起きるまで、ベトナムの経済は貿易活動と内需の拡大、そして外国投資の流入などを背景に、実質GDP成長率7%前後の安定した成長を続けていました。日本の企業にとって、ベトナムは中国に続いて2番目に多い海外進出先です。筆者が働いているホーチミン市の日本商工会議所は上海、バンコクの商工会に次ぐ世界第3位の規模で、2019 年 3 月時点で1,022 の日系企業が加入していました。また2019年版の海外在留邦人数調査統計によると、ホーチミンには1万1,581人(前年比30.6%増)の在留邦人が住んでいました。 

ベトナムの医療状況は、いまだ絶対的な人員・物量不足が問題であり、例えば2016年時点で人口1,000人に対する医師の数は0.82人(2015年のOECD(経済協力開発機構)平均値は3.3人、2014年の日本は2.4人)、看護師1.43人(2014年の日本は11.24人)でした。また医学教育においては、一定の教育期間を終えるだけで医療者の資格が取得できます。その他さまざまな要因の結果、ベトナムの診療やケアのレベルは国際的な水準と比べれば低いとみなされており、内視鏡や生検などの侵襲的な検査や、中程度から重篤な疾病の治療、輸血などが外国人患者に必要な場合には、近隣の医療最適地(Nearest Country/Centre of Medical Excellence(NCOME)、ベトナムからはバンコクやシンガポールがそれにあたります)に医療搬送(Medical Evacuation)するように指導されています。ベトナムで気をつけるべき病気や健康問題については【2019年版】これだけは是非チェック!!ベトナム進出前・進出後に必要な当地医療事情.に以前まとめましたので、ご興味があればご覧ください。 

一方筆者が勤務しているRaffles Medical HCMC Clinicは、ホーチミンに住む外国人にプライマリケアを提供することが主な業務の1つです。そのため新型コロナウィルスに感染した海外からの渡航者が、最初に訪れる医療機関となる可能性が高く、私を含めてすべてのスタッフは極度の緊張感に苛まれながらも、ホーチミンに住む外国人診療の第一線を担う医療機関としての矜持をもって日々を過ごしていました。ただ正直に告白すると、私自身がベトナムの医療状況を信じ切れていなかったので、「ああ、このまま異国の地で感染して死ぬかもしれないな」という気持ちには何度かなりましたが・・・・ 

しかし、この原稿を書いている7月13日までの時点で、報告された新型コロナウィルス感染者はたったの372例(このうち回復350、死亡0、輸入例224)で、すでに3ヶ月近くベトナム国内からの新規発生の報告はありません。この結果だけをみると、ベトナムは幸運な国だと思われるかもしれません。なかにはこの報告を疑う方もいるでしょう。しかしベトナムではこの成果を達成するだけの、日本と比べれば異様といえるほどの厳しい取り組みがなされていました。ベトナムがおこなっている新型コロナウィルス対策の主な柱は、
① 入国者の隔離、国際便の停止、濃厚接触者・感染者の徹底的な追跡/隔離。
② 感染拡大を抑えるために医療専門家・警察・軍隊の動員。
③ 広報・啓蒙にITを活用。
④ 国民に対しての明確な情報提供、フェイクニュースの徹底的な排除。
の4つです。そしてこれらの対策を徹底して推し進めることができているのは、ベトナム政府の素晴らしい決意と実行力があったからでした。例えばグエン・スアン・フック首相は国内感染者がたったの2人であった2020年1月27日には「国民の健康と安全の確保を最優先し、そのためには短期間である程度の経済成長の犠牲はやむを得ない」、「敵と戦うようにパンデミックと戦う」と明言しました。さらに1月30日(感染者は6人)には国内流行宣言を発令しました。実際ベトナムのおこなった感染対策は徹底的で、2月13日には11人の感染が確認された10000人規模の村を封鎖(ロックダウン)し、それが3週間ほど続きました。その他さまざまな取り組みに関してご興味がある方は、アプリ開発ラボマガジン. ベトナムはいかにしてコロナ感染を収束させたのか?. をご覧になってみてください。

こうして2020年4月末には他国に先んじて国内感染の制御に成功し、経済成長に向けての取り組みを再開しました。他の多くの国の経済がマイナス成長であった中、上半期のGDP成長率は前年同期比+1.81%で、ベトナムの戦略は公衆衛生的にも、経済的にも非常に高い評価を受けています。そして現在は経済を活性化させるための手段の1 つとして、いくつかの国から投資家や技術者、管理職などの外国人専門家を迎え入れ始めました。日本からもすでに500人以上が入国しています。もちろん入国した皆さんは、もれなく14日間の隔離を受け、水際対策もしっかりと継続しています。アフターコロナの時代においても、ベトナムは日本にとって重要なパートナーであり、注目の進出先であり続けることは変わらないでしょう。