海外で成功する医師、実は「失敗を繰り返している」?

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その12

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。 

これまで3回にわたり、ベトナムで人材紹介事業を行うJAC Recruitment Vietnam元社長の加藤将司さんに、海外でキャリア形成をするために、必要な知識と心構えを教えていただきました。今回が最終回です。

留学や就職のために海外に行くことは、あくまで新たなキャリアのスタート地点に立っただけの話で、そこからいくらでも失敗・後悔は起こり得るものです。むしろ海外なんか来なければよかったと思ったりすることもあります。
僕自身後悔や失敗の多いキャリアではありますが、途中でくじけて諦めなくてよかったと思うことはたくさんありました。
そこで今回はどのような人が海外で成功しやすいのかを、多くの方々のキャリア形成を見守ってきた加藤さんに教えてもらいました。

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ベトナムにて、加藤将司氏(画像は筆者提供)

 グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。

 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。

 加藤将司氏との対談は今回が最終回。海外で働く人材を多く見てきた加藤氏と、海外で長く勤めてきた中島先生とで、海外でも生き残れる医師について語っていただきます。

海外勤務を「自分探しの旅」で
終わらせないために

中島 加藤さんが転職エージェントや人材採用のプロとして扱ったケースで、海外で働く医師の成功例にはどんなものがあるでしょうか。

加藤 転職とは異なりますが、カンボジアで起業した歯科医師の方がいます。非常にフレキシブルで、日本と海外でのルールの違いをご説明したところ、きちんとリスクもふまえた上で判断されていた。今、すごくうまくいっているようです。

 日本人は割と「ジェトロ(日本貿易振興機構)からこう聞いた」など、公的な情報に固執してしまいがちなんですよね。彼らは仕事として規則に則ったことしか話せない。でも実際に行動するとなると、規則通りにならない場合が海外ではほとんどです。その違いを理解できる人が、海外でもビジネスを上手に発展させているように思いますね。

 逆のケースだと、海外に出て半年くらいで「医師としてのキャリアが作りにくい」と言われてしまったということがありました。こっちからすると、「キャリアを作りたいなんて最初に言ってなかったぞ!それなら日本にいれば良かったじゃないか!ただの言い訳だろう!」と思うのですが…(笑)。

中島 でもその医師の気持ち、私はすごくよくわかりますよ(笑)。私も最初の病院では、すぐに海外で医師としてキャリアを積むために必要な経験をさせてもらえると思っていたし、そういう約束で契約をしたはずだったのですが、思うように仕事をすることができず、モヤモヤした日々を過ごしました。

 今思えば、空いた時間に総合診療医として必要な座学をしたり、小児科や救急などいろいろな科を見て回ったりしたことは、大変役に立ってはいるのですが…。ほとんど医師としての役割を与えられない毎日で、日本で出発前に思い描いていたプランと全く違ったので、「どうしてここに来てしまったんだろう」とばかり思っていましたからね。

 最初の病院を辞めて転職しようと決めたのも、「このままでは日本に帰ることなんてできない!」と思ったから。せめて3年はいないと、単に「海外へ自分探しに来たんだろう」と思われてしまうんじゃないかと不安でしたね(笑)。

 5年ぐらい海外で働いてやっと、キャリアとして「海外の病院で働いていました」と言えるようになると思っていたので、最低でも3年は頑張ろうと決めていました。そのくらいはいないと、「お前は旅行気分で行ったのか」と言われてしまうでしょうから。海外に出たばかりのころは「自分はこのままどうなっちゃうんだろう…」という不安な気持ちを抱えていたので、その方の気持ちはよくわかりますよ。

加藤 ちなみにその「医師としてのキャリアが…」とおっしゃった方は、短い自分探しを終えて、すぐに帰国されました(笑)。

成功の秘訣は「失敗」にあり?

中島 加藤さんは医師に限らずいろいろな方を見てこられましたが、海外で成功する人に共通点はありますか。

加藤 その国が新興国なのか、先進国なのかで異なりますね。ベトナムのような新興国だと、「何でも食べられて、どこでも寝られて、誰とでも話せる人」というのが大切。コミュニケーション能力があって、衣食住の許容範囲が広い人だと、仕事でも上手にその国の人たちと関わることができると思います。文化や環境の違いを面白がって受け身の態勢を取れる人は、成功例が多いですね。

中島 医師には比較的丈夫で、悪環境に強い人が多いので、実は新興国で働くのに向いているのかもしれませんね。ほかに海外でのキャリアの成否を左右する要因を考えてみると、医師に限らず日本人は「失敗慣れしていない」のではないかと思います。

 海外で「失敗すること」は普通のことです。大事なのは、失敗したからそこでやめてしまうのではなく、もう一度立ち上がり、失敗を糧にして次のステップに進むことだと思っています。そういう意味では「失敗を繰り返すことを恐れない人」が海外で成功できる人ではないでしょうか?

加藤 本当にその通りですね。私はベトナムの大学で若者に向けて「キャリア論」について話をしたことがあるのですが、「日本の若者は自分探しをすることがあるんだ」と言うと、皆「自分探しって何!?」と驚くんですよ。

 私もなかなかうまく説明できなったんですが、「小さなトライ&エラーを繰り返すこと」と話すと、ベトナムの若者たちが納得してくれたんです。日本人は「できて当然」とか「小さな失敗もできない」と思ってしまいがちなんですよね。

中島 ベトナムでは少しでも給料が高い職場を見つければ、近くにあるライバル店であってもすぐに転職します。ロイヤルティ(企業への忠誠心)なんてあったもんじゃありません。彼らにとって「トライ&エラー」は日常なんです。

加藤 まるで息継ぎのように、当たり前に日々トライ&エラーをしていますよね。ベトナムの人たちを見ていると、よくエラーをするんですよ。こっちからすると「もう少し前例から学びなさいよ!」と言いたくなるようなこともあるんだけれど(笑)、そんなことではへこたれない。ベトナム人にとっては、失敗したらもう一度トライすればいいだけの話なんです。

海外で働くうえでカギとなる存在は

中島 最後に、海外で医師として働きながらプライベートも充実させるためには、どんな心構えが必要だと考えますか。

加藤 やはり「その国で働かせてもらっている」という意識は持つ必要があると思います。本来ならその国の人が働くほうが、国の発展だとかいろいろな面でいいのかもしれない。ですから、与えられた環境への感謝の気持ちと、その国の文化・歴史・習慣といったものに興味を持って異文化コミュニケーションを計れることが、とても大切ではないでしょうか。

中島 現地のことに興味を持つことは大事なことですね。興味を持って、好きになるからそこに長く居たいと思うわけですから。

 あとは家族の存在も大きいですよね。私の場合は家族の「海外へ行ってみたい」という強い希望があってこの道を選んだところがあります。いずれにせよ海外で働くかどうかは自分1人で決められません。家族が納得してなければ、海外で公私ともに充実した生活を送りながら長く滞在するということはできませんよね。

 私は家族がいなければ、こんなに長く海外にいることはなかったでしょうが、もし1人だったらと考えてみると…、さらに複数の国で働くなど、また違った経験ができるのかなと思ったりもします。加藤さんは両方の経験がありますよね。

加藤 はい。その経験から言うと、1人でも家族がいても、海外で働くことはどちらもおすすめです。興味があるなら、とにかく一度海外へ出た方がいいと思っています。今の日本では、国内だけでキャリアを積んでいくというのはなかなか難しい時代になってきました。いろいろな国で、さまざまな環境の中で働いて、「日本“でも”キャリアを作れる」ような人材になっていくことが大切なことだと思います。

 私がセミナーなどでよくする話なのですが、日本人が海外で働いて日本へ戻ったとき、「帰ってきた」のではなくて、「新しい次の国で働く」という意識を持つことが大切です。日本語が通じたり、知っている人がいたりすると、なかなか初めての国で働くときと同じフレッシュな気持ちで働くのは難しいかもしれませんが、新しい国で新たなキャリアを築いていくんだという気持ちが持てれば、同じ環境でも成長の度合いは異なるはずです。

 それに一度海外を経験したことで、同じ日本でも見える景色や自分の考え方は違ってきます。そのためにもまずは最初の扉を開けてみてほしいですね。“日本でのカルチャーショック”も含めて、ぜひ体験してみてほしいと思います。

中島 今回は加藤さんがホーチミンにいたころに飲みながら語り合っていたような深いお話ができてとても良かったです。ありがとうございました!

まとめや次回予告

 今回は中島先生や加藤氏が体験した事例から、海外で成功する医師の共通点を探っていきました。

 次回からは、中島先生が副業として勤めているベトナムの医療商社「クローバープラス有限会社」より、代表取締役の佐々木英樹氏がご登場。海外民間企業で医師はどのように活躍できるのか、探っていきます。