現地医師がありえない提案…でも意外なところに原因が?
グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その21
日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。
私はベトナムで働いているのですが、娘はシンガポールで生まれました。
同じ海外出産でもベトナムとシンガポールでは事情がかなり違います。
この辺りの違いや、リスク管理の考え方についてシンガポールで働く産婦人科医の鍋島先生と一緒にお話しました。
出産前後で患者さんに帰国命令…
その時医師は
中島 鍋島先生の患者さんは日本人駐在員の家族が多いと思いますが、海外ならではの特別なニーズや特徴はありますか?
鍋島 患者さんには日本から来た駐在の方も現地採用の方もいますし、夫がシンガポール人だからシンガポールで産みたいというケースもあります。駐在員ならではの困りごとが、会社に命令されたら帰国しないといけないことですね。突然帰国が決まって、出産ギリギリなのに帰らなきゃいけないことがあるんです。
中島 ああ、それは大変ですね…。でもそんなこと言われても、もう飛行機に乗れないタイミングかもしれませんし、日本で病院が見つからないリスクもありますね。
鍋島 あとは、出産までは待つけど産まれたら1ヶ月で戻るように会社から言われちゃうこともありました。ニーズとしては、妊娠中に帰国するよりシンガポールでそのまま出産を希望する方が多いので、会社もお産までは現地にいさせてくれるんです。産後すぐ帰国するのは時折あるパターンです。
そうした方に対し、体調などを見ながら今は帰国しない方がいいと話したり、逆にシンガポールだと危ないから日本に帰った方がいいと伝えたりする場合もあります。家族のサポートが必要など、日本で診たほうがいいケースも結構あるんですよね。
あと、早産になりそうな人で、保険や会社のサポートがなさそうな人は日本に帰った方がいいですね。実はシンガポールの新生児医療ってものすごくお金がかかるんですよ。NICUに1ヶ月入ったら1,000万円以上かかります。日本では高額療養費制度でサポートされていますが、シンガポールだと全額自己負担になるので。リスクが高そうな方に、「今すぐ帰った方がいい」とアドバイスしたこともあります。
鍋島先生と、鍋島先生が取り上げたばかりの赤ちゃん_画像は筆者提供
ベトナムでの出産を極力避ける理由とは
中島 私の病院だとベトナム人の産婦人科医がいるので、その先生が飛行機に乗れるギリギリの妊娠34週近くまでベトナムで診て、34週前に日本に帰って里帰り出産するパターンが多いです。
ベトナムって、日本人に出産を勧められる環境じゃないんですよね。データで見ると、ベトナムは5歳未満の死亡率が格段に高く、日本の約15倍、1000人に30人の割合となっています(※)。シンガポールや日本ではできてもベトナムではできない処置などがあるので、私がいるような国際的なクリニックでは基本的に海外出産をオススメしていないですね。
私の仕事としては、日本に紹介状を書いたり、現地の産婦人科医の先生の手足となって通訳したりサポートしたりしています。日本で出産して赤ちゃんを連れて帰ってきた時には、もちろん総合診療医として予防接種を打つとか、子どもの病気を診たりすることになります。
鍋島先生の患者さんで里帰り出産するケースはどれくらいありますか?
鍋島 概ね半々です。最近は新型コロナウイルス感染症のせいで帰りづらいので、シンガポールで出産する人も増えましたが。
※出典:UNICEF Levels and trends in child mortality 2020
日本ではありえない提案をする現地医師、
しかし言葉の問題だった可能性が…?
鍋島 ベトナムと言えば、以前、ベトナムに転勤になったのでベトナムで出産したいという人を現地にあるフランス系の病院に紹介したことがあって。その病院でなんと、風疹ワクチンを打つように言われたと、患者さんから連絡があったんです。
中島 え、妊娠中に!?
鍋島 日本では妊娠中には基本的に打ちませんよね。なんですが、ベトナムではそれを勧められたというのでビックリしました。もちろん、患者さんにはやめたほうがいいと伝えました。
中島 もしかしたら、通訳の方が間違って伝えた可能性もありますよね。英語からベトナム語の医療通訳は資格がありますが、ベトナム語から日本語の資格はありません。誤訳が原因で問題が起こったと耳にしたことがあります。
鍋島 そうしたコミュニケーションの齟齬をなくすため、私のクリニックでは、シンガポールのローカルドクターと日本人患者さんの橋渡しもメインジョブの一つです。言葉の壁や習慣で、患者さんと先方の先生やスタッフとコミュニケーションが難しいケースもあります。そうしたときは、当院のスタッフや私が紹介先のクリニックに行きます。
また、患者さんがベトナムやタイなど国外での出産を希望された場合は現地の病院へ紹介しますが、先ほど中島先生もおっしゃっていた通り、東南アジアの他の国でのお産はリスクが高いので、日本でのお産を勧めることが多いですね。
まとめや次回予告
駐在員ならではのニーズや特徴を通じて、海外出産ならではのリスクやその対応などについて探っていきました。次回は、実際に奥様が海外出産された中島先生の体験談を通じて、より海外出産のリアルに迫ります。