医師の新たな転職先に「IT業界」を挙げる理由は…
グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その33
日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。
今回も「株式会社バイタリフィアジア」の代表取締役で、長年IT企業の立場から医療に関わられてきた櫻井岳幸さんにインタビューです。
今回は特にバイタリフィアジアで開発された感情認識AIの臨床への応用、活用の可能性と、医師のIT分野におけるキャリアの可能性についてお話をしてもらいました!
開発が進むベトナムのAI活用の実際
中島 世界中で開発が進められているAIの分野についてもお話をお伺いできればと思います。櫻井さんの会社ではAIの技術開発も手掛けられていますが、AIの医療分野での活用という観点で見たときに、ベトナムで先駆的な取り組みはありますか?
櫻井 病院の内情に通じているわけではないですが、外から見える限りはまだインパクトを出すような活用はされていないと思います。いろんな企業が、いろんな病院の医師と個別につながって、個別にデータをもらって実証試験を行って、何かできたらニュースをリリースしている状況です。「医師が使い続けて診療に役立っています」というところまではいってないと思います。
中島 私が見ている範囲でも、AIを使って何かやっているのは感じられないですね。うちのクリニックに大病院から放射線科の先生が来ているんですけど、その方も地道に自力で読影していて、例えばAIを使って業務効率化しよう、という雰囲気ではないですね。
メンタルヘルス分野で期待される
「感情認識AI」とは?
中島 櫻井さんの会社では、人の表情から感情を読み取るAIの開発も行われていますよね。
櫻井 はい。カメラで人の表情を読み取ると、合わせて感情も読み取れるAIの開発を進めています。人が普段当たり前にやっている、相手の表情を見て「結構怒っているな」とか「うれしそうだな」とわかるようなことですね。このAIによる感情情報認識分析は、ヘルスケアに活かせるんじゃないかと思っています。
例えば、出退勤時にAIを搭載したアプリを使い顔の感情を取得します。そうして日々の表情データを蓄積して、そのデータと給与や休職者、離職者などの人事が持っている他の情報とを比較分析したときに、何かしらの傾向や相関関係が見えてきて、早めにケアをしたり対策を打ったりできるようになるといった使い方をイメージしています。まだ開発段階ですので、実際に活かしていくのはこれからですが。
中島 産業医の立場でいうと、元気なときの基準となる表情値を設定しておいて、例えば2週間くらい基準を下回ったら不調のサインと考えてフォローしていくような使い方ができる気がしますね。かなり状態が悪くなってから「調子悪いです」と自己発信されるより、普段からどうフォローしていくかも大事だと思うので。
自己発信できない人にとってもいいですよね。よくわからないけど胸がどきどきするとか頭がずっと痛いんですとか、それで話をよく聞いてみたら心の不調が原因だったという患者さんが結構いるので、身体化障害が出る前にケアできるといいと思います。職場環境が悪いのかもしれないとか、早期の段階でわかればやれることも多いですし。
あと、Zoomなどを活用したオンラインミーティングがすごく増えたので、ZoomにこのAIを入れて、遠隔地の従業員のメンタルをフォローすることができるといいなと思いますね。
櫻井 なるほど、いろいろ考えられそうですね。
中島 表情から症状などを読み取るということで言えば、人の痛みを評価するためのツールであるフェイス・スケールと連動して活用できる可能性もありますね。現時点では喋れない高齢者の患者さんに対して、看護師が顔を見てフェイス・スケールを活用して痛みを判断するケースもありますが、AIを使ってより客観的な指標で判断できるようになるだけでもとても価値があると思います。
医師もIT業界に転職できる時代?
これからの医師のキャリアパス
中島 いろいろ医療とITとの関わりについてお話を伺ってきましたが、例えば医師がIT企業に転職できるかという点については、どう思われますか? 結構興味ある医師もいるような気がするんですよね。特にこの記事を読んでくれるような読者の先生は(笑)。
櫻井 ベトナムは医療系のスタートアップが出てきていますし、ITを活用してベトナムの医療課題を改善していこうという動きはたくさん起こっていますね。
私も若い時は狭い価値観で選択肢も持っていなくて、「この道がダメなら終わりだ」なんて思っていましたが、海外に出て選択肢が増えてそう思わなくなりました。若い医師の方も、今いる病院や所属している団体から外されちゃったら医師として終わりだと思ってしまうのかもしれませんが、そんなことはないと思うんです。
中島 現実問題として臨床に向いてない医師っていると思うんですが、そんな医師がITの勉強をした場合に、櫻井さんの会社のような海外で活躍されている会社で働ける可能性ってあるんでしょうか?
櫻井 IT業界は入りやすいと思いますよ。ITと言ってもコーディングや設計などエンジニアの仕事だけがITではありません。実際使うユーザーが医師であれば、病院の業務フローを可視化してIT化する範囲の要件を整理したり、システムは使っているうちに必ず問題が出てくるので、それを的確に把握したうえでの改善提案やサービス自体を普及させていく営業的な立ち位置を担ったりすることも考えられます。いろんな方面から活躍できる可能性があると思いますね。
中島 なんだか私もIT業界に足を踏み入れたくなってきました(笑)。お話を伺って、医師としてそういう新しい生き方ができる可能性もあると視点が拡がりました。貴重なお話をありがとうございました!
まとめや次回予告
今回は、AIの医療分野での活用と、医師の新しいキャリアとして、IT企業で活躍する可能性について中島先生と櫻井氏にうかがいました。
次回からは、中島先生の先輩でもある東京新宿メディカルセンターの溝尾朗先生がご登場。海外でのクリニック院長職の仕事や、僻地医療について詳しくお話をうかがい、その魅力ややりがいについて探っていきます。お楽しみに。