海外医師「“日本の医療がすごい”時代は終わりつつある」
グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その49
日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。
今回で若手総合診療医の米崎駿先生((この4月から長崎大学病院 感染症医療人育成センターに所属))との対談は今回が最終回。
海外経験を活かした理想のキャリアパスとは何かについていろいろと意見を出し合いました。
あまり関係ないですが、すっかり自分自身の中から攻めの姿勢がなくなっているのを感じてびっくりしました。気を付けないと。
エチオピアにて米崎先生(写真は米崎先生提供_以下同)
自分クラスの医師はどこにでもいる
――その中で何ができる?
中島 今回は、医師にとっての海外経験も含めたキャリア形成の可能性について、考えていけたらと思います。
日本国内では、少ないポストを争う椅子取りゲームみたいになってしまう状況は決して珍しいことではありません。そこで椅子が空くのを待つのではなく、海外に活路を見出すのも、ある種当然の選択肢だと思うんですよね。
また、日本の医療の国際化であるとか、今後の国内の人口減少を補うために来日する外国人が増えると思いますし、その中で活躍するために、一旦海外で経験を積んでから日本に帰ってくるというのも、キャリア選択の一つになってもいいかと思います。
米崎先生は今後のご自身のキャリアについて、どんなビジョンを持たれていますか?
米崎 ビジョンではなく悩みなんですけど(笑)、次、海外に行くときには何をすればいいかを考えています。
国際協力のような、海外に何かを提供できる立場の医師には、まだ自分はなっていないと思っていて…。どうすればワンランク上というか、何かを提供できる医師になっていけるのかといったところは、すごく悩んでいます。
国境なき医師団みたいな活動がやりたいという思いがあったんですが、自分クラスの医師はどこにでも、それこそアフリカにもいます。そうなると、一体自分に何ができるのかと思ってしまいます。
中島 そういう意味では、海外進出しているヘルスケア企業に勤めたり、プロジェクトのアドバイザーのような、これまでの典型的な医師像とは違う形で、海外で働いたりという道もあるのではないかと、個人的に思いますね。総合診療医として日本で頑張りながら、副業みたいな感じで海外の問題に片足突っ込んでおくと安全というか…。おじさんくさい意見で申し訳ないんですけど(笑)。
ベトナムの国立病院などに対して、日本企業の開発した内視鏡を導入しようとしていたり、そういった海外への医療支援・進出のための努力が継続的に行われているので、そこに医師が協力するのも、一つの国際協力の形かなと思います。
難しいのは、「日本の医療技術やプロダクトはすごいから教えてやるよ」という態度では、もはや世界から受け入れられなくなってきている点です。なのでそれ以外の部分、例えば商社などは保険や病院システムみたいな方向から入ったりしているんですよ。アフリカではヘルステックという形で進出している日本企業もあります。
2020年代に入ってから、医療分野における国際協力の形が変わってきているような印象がすごくするんですよね。私の勝手な印象かもしれないんですけど。
米崎 そうですね。私も何かが変わってきているのかなというふうには思っています。
トラディショナルな考えでいえば、医師として心カテの技術とか外科の技術とか、そういうことも拡げていこうと思っていたんですけど、最近は他にも何かいろんな可能性があるのかなって思うようになりました。
多様化したキャリア「正解がわからない」
――悩みに先輩医師の答えは
米崎 逆に、最近は選択肢がいろいろあって、どれが正解かわからないというのが正直なところです(苦笑)。このまま病院でやっていくのか、大学などアカデミアに行くのか、はたまた直接海外に行くのか、それともちょっと公的な機関に行けばいいのかがわからなくて悩んでいます。どれも最終的には国際協力・国際貢献につながっていくとは思うんですが、自分がその中でどれに一番楽しみを感じられるのか、やりがいを感じられるのかがわからないのが大きいですね。
中島 ロールモデルが少ないですもんね。先行者が少ないから、全くのブルーオーシャンだと思っていたら、実はそこは真っ暗な海でその先に何も見つからない可能性もある。私はそういう気持ちになることがあるんですよ(苦笑)。
米崎先生はバックパッカーで培った突破力があるから、何かのコースに乗るよりも自分で作っちゃった方が早いかもしれないですよね。特に先が見えないようなところを突き進んでいくようなときは。いろんな人と交流して情報やアイデアを得ながらチャンスをつくりだして、それをつかむのもいいかもしれません。
日本では、海外から帰国したものの、その経験が活かされるキャリアパスに乗れていない人が結構いるように感じます。
米崎 なるほど。正解がないからこそ、自分でキャリアを作っていく楽しみがありますね。
アメリカの実習先での米崎先生
「日本の医療はすごい」時代が過ぎつつある
――今、海外進出する意味は
中島 海外に興味を持っていたり、働きたいと思っていたりする方に対して何かアドバイスはありますか?
米崎 やっぱり一度、気軽に海外を経験してもらえるといいと思います。私にとって、海外経験の価値というのは好奇心を満たしてくれるところにあると思います。日本だけで生きていると、国の数からいえば200分の1、人口で言えば70分の1しかわからないわけで。そこだけで人生を終えてしまうことは、つまらないことなんじゃないかと。
海外に行くことで、視野が圧倒的に広がると思いますし、広げたうえで、200分の1の日本をいろんなところにつなげて、より活性化していく役割も担っていけるかなと思いますし、自分自身の世界を広げていくことはもちろん、人をつなげる活動をしていけるという意味でも貴重な機会になると思います。
今の総合診療医としての仕事においても、視野を広げた分、患者さんのさまざまな価値観に対して理解を持って接することができるようになるなど、還元できていると感じています。
中島 我々が昔思っていたような「日本の医療はすごいぞ」という状況からどんどん変わってきてしまっているので、日本人に対する信頼が残っているうちに海外に出たほうがよい気はしますね。一応、今は実力以上の下駄をはかせてもらっている状態ですから、どうせだったらそのほうが楽で活躍しやすいですしね。
最近だと海外に住んでいる人に対するオンライン医療相談ができたり、ヘルステックで国際貢献をしたりとか、いわゆる従来の臨床医や研究者として外国で働く以外の、国際的な働き方の選択肢も出てきてるような感じはするんですよね。
ただそれは先行事例が少なすぎて、自分で作っていくしかないような部分があるので、ぜひ、若い人は勢いで切り拓いていってもらえたらと思います
米崎先生、海外での貴重なお話をありがとうございました!
まとめや次回予告
今回は、これからの時代における医師のキャリア形成の中で、海外経験をどのように活かしていくことができるのか、また、臨床や研究にとどまらない新しい国際協力の可能性について、米崎先生と中島先生にお話をうかがいました。
次回は、海外クリニックで事務長の経験を持つ金津はつみ氏がご登場。医師の採用経験も豊富な金津氏と、海外で求められる医師の条件を探っていきます。お楽しみに。