2週間でクビも…簡単に採用され簡単に切られる医師

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その50

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。

今回からご登場いただくのは、海外の医療機関で長らくカスタマーサービスや、事業開発部、事務長などとしてご活躍されているご経験をお持ちの金津初美氏です。

その豊富なご経験をもとに、海外クリニックでの日本人医師の採用をテーマにいろいろ教えていただきました。

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日本人医師の採用、最も重視するのは…

中島 今回は、海外のクリニックで事務長として活躍してこられた金津さんに、海外のクリニックにおける医師の採用事情や、海外で働くのに適する医師像について詳しくお話をうかがえたらと思い、お声をかけさせていただきました。

金津 よろしくお願いします。中島先生や色々な国から来たドクターの方々と一緒にいろんな事業や仕事をやらせていただきましたので、その経験を基にお話しできたらと思います。

中島 金津さんは複数のクリニックで事務長として、クリニックと日本人コミュニティをつなげる仕事を積極的にされていましたよね。まさにクリニックの顔でした。

金津 患者さんに来ていただくためには、日本人コミュニティに入りこむことが大事ですから。去年は1年間ベトナム日本商工会議所の理事もさせていただいて、日系企業の方を対象に医療講演を企画したり、商工会の下部組織である婦人会にも出かけて、ドクターと一緒にベトナムで注意すべき病気やその対策について情報提供したりもしていました。

中島 日本人コミュニティといっても、日本から進出した企業や関連する人たちの集合体なので、患者や家族だけでなく、企業ともつながる必要があるので、ビジネススキルが求められますね。

 日本人医師の採用については、どのように関わっていたんですか?

金津 採用自体は人事が取り仕切るんですが、日本人医師や看護師などを採用する場合は、すでにいらっしゃる日本人医師や日本人コミュニティで受け入れられる方なのかが一番重要なので、その点を見極める役割として面接に入って、院内にフィードバックしていました。

「1、2年ベトナムで働きたくて」に
思わず苦笑

中島 面接では、具体的にどんな点をみていくんですか。

金津 私のような医療職ではない者が面接する理由は、どんな人物かというお人柄の部分をみるためです。医療的な技術だけでなく、日本人コミュニティに溶け込むことができ、日本人の患者さんがこの先生に診てほしいと思えるようなパーソナリティであるかがやはり大事です。僭越ですが、どんな方なのかをお話しする中で拝見していきます。

 1回1時間ぐらいで、あまり面接という感じではなく、ざっくばらんにお話させていただきます。あとは、給与や福利厚生などの設定をお伝えします。住居手当であるとか、お子さんの教育手当であるとかをお伝えして、全体的な感触をマネジメントサイドにフィードバックします。

 そうすると、もう少しこの辺りを詰めてほしいと言われたりするので、その後、1、2回私だけと話すような機会をつくって微調整をしつつ、大体の合意ができてきたところで、CEOなり実際に決定権のある人たちにつなぐ感じです。

中島 金津さんが面接をして、そこで終了のパターンってあるんですか?

金津 実際の面接ではなかったですが、日本でクリニックの紹介をする機会がありまして。そのあとに「ちょっと、1、2年ベトナムで働こうかなと思っているんです」ってお電話くださった方がいました。

 ただ、1年ぐらいと言われても…それぐらいではこちらとしてもどうにもならないので、その方はその場で終わりましたね(苦笑)。

中島 試しに海外でちょっとだけ働いてみたい、という気持ちはわかりますけど、採用する側からすれば、わざわざその人を優先して採る理由があまりないですよね(笑)。

 求職者の専門科目による違いはありますか?

金津 表立った違いはないですが、1日何人患者さんがいるだろうか、はやはり試算します。つまり、患者数が見込めるかどうか。それでいくと『総合診療ができるかどうか』が要になると思います。

中島 私は、日本では泌尿器科と緩和医療科のトレーニングしか受けていないにもかかわらず、海外に出てしまい、そこではじめて総合診療医としてのトレーニングを受けるという状況でした。現在でも、そんな状況でもOKと言ってくれるクリニックはあると思うので、日本で総合診療をやってないとダメというわけではないですね。海外に来て学び直すのもありかなと思います。

採用されたと思ったら…
2週間でクビも!?

中島 日本と海外では医師の就職活動も違いますよね。私がシンガポールにある日本人向けクリニックに勤めていた時、ちょっと興味があった企業に電話して「見学させて」って言ったら、あれよあれよという間に話が変わって、「2週間後にインタビューに来い」ということになってCEOと話した、なんてことがありました。

 私の英語が悪かったのか、向こうが意図的にやったのか知らないですけど(笑)。

金津 そうですね。日本と違って、こちらが募集を出していなくても「働きたいんですが」って連絡してこられて面接するパターンもあります。あとは、中島先生のようにブログやSNSなどで発信をしている医師に対して、一緒に働きたいと思ったドクターが直接アプローチするとか。

中島 私の場合は、本当に興味本位で見学させてって言っただけだったんですけど(笑)。

 確かに、日系クリニックだと人材紹介会社を使うことは結構多いんですが、今、私がいるRaffles Medical Groupのようなインターナショナルクリニックは、紹介手数料がかかることを嫌って普通は紹介会社を使いません。紹介会社の方に募集がないかときかれることもあるんですけど、うちは募集をしてないですって言っています。それは、紹介会社を使いません、って意味なんですよね。

 基本的にはリファラル採用か、もしくは直接送られてきたメールとかを基にインタビューを実施し、そこでキャラクターや英語能力、コミュニケーション能力を見て、使えそうだと思ったら採用されます。このことは、海外に来たあとで知りましたが(笑)。

 あと、日系クリニックだとあんまり試用期間中にクビになることはないと思うんですけど、インターナショナルクリニックとかだと普通に試用期間でクビになりますよね。Raffles Medical Groupではいわゆる試用期間が設定されていて、その間に一緒に働いて無理だなと思われたら、さようならってなりますね。簡単に採用して簡単に切る感じ。

金津 2週間とか1カ月でいなくなった方もいましたね。そうなる原因は、医療技術の面がどうかというのと、日系クリニックでもインターナショナルクリニックでも同じですが、チームで動けない人はまず無理で。実際にチームの中に入ってみてまったく何も一緒に動けないことがわかって、ダメだということもありますね。

中島 チームって言うと、日本国内だと例えば総合診療医と循環器科医が協力しますとか、他の医療職と協力することだと捉えられますが、海外のクリニックの場合だと、セールスチームやマーケティングチームと協力できるかも問われますよね。

金津 はい。それにクリニック内だけでなく、関係各所との連携もとても重要で、最初にお話ししたような企業に向けた講演やセミナーをやってほしいというときに、私の仕事は診察室で患者を診るだけで、それ以外の仕事はやりませんという方だとなかなか難しいんですよ。

 中島先生がいろんな企業や、JETRO(Japan External Trade Organization:日本貿易振興機構)やJICA(Japan International Cooperation Agency:国際協力機構)など、さまざまな日本の組織や大使館、領事館と直接やりとりされるように、医師として求められる役割が日本と違うんですよね。

 日本で何かを築き上げてきたというより、いろんな役割を楽しんでやるような柔軟な姿勢が大切で、新しい環境にチャレンジしていく気持ちを持っていただけるといいですね。

まとめや次回予告

 中島先生が実際に行われた就職活動や、金津氏の海外クリニックでの採用エピソードを通して、実際にどのような就職活動が行われ採用に至るのかをご紹介しました。

 次回は、最近の転職トレンドや条件交渉などについても語っていただきます。お楽しみに。