グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その6

日本人は「弱者」で「マイノリティ」…医師はどう支援

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。 

前回に続き、元外務省医務官の仲本光一先生がご登場。今回は、仲本先生が立ち上げに関わったNPO法人「JAMSNET(ジャムズネット)」での活動を中心に、臨床現場以外で医師が力を発揮できることは何かについて教えていただきました。
私自身も海外に出たばかりのころは、『病院の中だけで臨床医として働いていればいい』と思っていたのですが、海外在留邦人のために病院の外で医師としてやれること、やらなければいけないことは、本当に多岐にわたります。
最近はインターネットも発達したので、国を超えて医療的に困っている人を支援すること、私自身が日本の医療者に助けてもらうことも珍しくありません。

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ジャムズネットメンバーと。仲本先生(前方左端)、中島先生(後方右から4番目)(画像:筆者提供)

 グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。

 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。

前回に続き、元外務省医務官の仲本光一先生がご登場。今回は、仲本先生が立ち上げに関わったNPO法人「JAMSNET(ジャムズネット)」での活動を中心に、臨床現場以外で医師が力を発揮できることは何かについて語っていただきます。

邦人を支援するNPO「ジャムズネット」

中島 今回は、ジャムズネットでの活動を中心にお話したいと思います。「ジャムズネット」は「邦人医療支援ネットワーク(Japanese Medical Support Network)」の頭文字から命名されており、日本人を支援する各団体の相互連携を進めることで、海外在留邦人の心と身体の健康をサポートするNPO法人です。在ニューヨーク日本国総領事館や日本政府、日系企業が協力し合って構築された、まさに官民一体の取り組みという点が特徴です。

 具体的には、医療や健康に関する情報をホームページ上で発信したり、日本人が海外で生活するうえで知っておくべき情報を、勉強会や講演会を通じて伝えたりしています。

 仲本先生はジャムズネット発起人の1人です。どのようにして立ち上げたのでしょうか。

仲本 海外における外務省には「外交」と「邦人保護」というふたつの役割があります。私が外務省医務官になってからは年々「邦人保護」の大切さが強調されるようになり、医務官が邦人のお手伝いをすることがどんどん増えていきました。しかし、前回(URL未作成)お話したように、診察ができないなどの制約がありますから、民間と協力して一緒にやっていくほうがいいのではということになったんです。

 その決め手となったのは、2001年にニューヨークで起こったアメリカ同時多発テロ。いわゆる、9.11です。ニューヨークには医療関係者を含め多くの邦人がいて、互いに助け合う団体が多数できていたのですが、その団体同士を横につなぐ組織がありませんでした。9.11が起きた時に、団体同士の連携不足が露呈され、総領事館も大きな批判を浴びたのです。

 そこで、当時の米国日本人医師会会長の本間俊一先生と共に、自助団体同士の連携と情報交換を目的としたネットワークを作ることになり、ジャムズネット結成に至りました。

 それ以降、この取り組みはアジアなどほかの国々にも徐々に広がっていき、今では東京、中国、インドネシア等のアジア各国や、ドイツ、カナダ、スイス、オーストラリアのメルボルンでジャムズネットが活動しています。現地にいる医療関係者らを中心として、邦人の皆さんをサポートしようという機運がますます高まるなかで、現在、中島先生にもご活躍いただいているというわけですね。

中島 私は、ジャムズネットアジアの活動に協力していると言えるほど大層なことはしていませんが、フェイスブックでの情報発信などを行っています。ベトナムやシンガポールでは集会の自由が禁止されているので、ベトナム内にジャムズネットの支部のようなものを作って現地の在留邦人を集めて、セミナーをはじめとしたさまざまな活動を行うことはできません。

 そうなると、できることといえば、せいぜいSNSを使って発信をすることです。たとえばジャムズネットから得た情報を投稿したり、普段の診察で患者さんから聞いた困りごとについての回答を載せたり、ベトナムの英字新聞の和訳を掲載するなど。今は、COVID-19の発生状況の傾向を掴み、情報発信をしています。

仲本 本来であれば、そういったことは総領事館や大使館がするべきことなのですが、国によっては医務官がいない場合もあります。医務官がいるとしても、一番の役割は邦人支援よりも大使館職員とその家族の健康管理です。なので、中島先生のような民間の医師がそのような情報発信をしてくださるのはとてもありがたいことです。

 それに、中島先生が発信している情報は、ベトナム国内に限定されるものではなく、世界中で共通していることが多いんです。他の国でも役立つということがあるので、その内容を私がアジア以外のジャムズネットに転送することもあります。

海外での日本人はマイノリティで災害弱者

中島 このような情報発信が大変役立つ場面として、大規模災害があります。

 話は少しそれますが、前回の対談で、仲本先生は私にとって“渡航医学の師匠”だとお話しました。単に渡航医学のことだけであれば、近くにいる外国人医師に聞けばいろいろと教えてくれます。でも、「日本人の扱いはどうしたらいいの?」と聞いても、彼らには答えられません。診察にしても他のことにしても、日本人には特徴がありますよね。

 まず、英語をほぼ理解できておらず、情報が得られていない。そのことで危ない目に遭う人はたくさんいます。

 次に、多くの日本人が会社に従順であろうとしますよね。海外で働く外国人は、自分の会社に嫌気がさしたらそこを辞めて別の会社で働けばいいと考える人が多いですが、日本人はそうではないと感じる場面が多々あります。特に、海外駐在員は「駐在中に失敗したら終わり」というふうに、精神的に追い込まれてしまう人もいます。

 これらの大きな特徴によって、日本人は海外で「弱者」になりやすいと感じるのです。

仲本 まさにその通りですね。海外において、日本人はマイノリティで災害弱者だと感じることは多いです。普段は弱者などと感じることはありませんが、ひとたび9.11のようなテロや災害が起こると、事態は急変します。英語が堪能で、ニューヨークで誰の助けも借りずにバリバリ働いていた人であっても、情報がなくなることで災害弱者になってしまう。

 私自身、9.11で実際に非常事態に見舞われました。その際、日本人同士の連携も総領事館のサポートもないとなると、どんな人でも海外で災害弱者になり得るということを強烈に自覚させられました。

中島 日本人が海外で働くときは、何かの専門家として行くことが多いと思うんです。そういう方々は、自分の専門外のことになると、医療情報の入手の仕方がわからなかったり、大げさなことを言うと銀行でだまされてしまったりすることもあるかもしれない。基本的に、多くの日本人は海外だと弱者だなと思います。

仲本 私も海外で長く暮らしましたが、住んでいる国のことしかわからない場合が多いんですよね。周辺地域のことをよく知らないために、近い国や地域のルールが全然違うことを把握できていない。それで、その国にいる医療関係者からできるだけ正確な情報を集めて発信したいな、と。そういった背景もあって、ジャムズネットを作ったんです。

単に「診てもらう」だけでは不十分――日本人患者が抱える不安

仲本 私の経験から、海外で日本人の患者さんが求めるものの多くは「メンタル=安心」だと思っています。そのことを提供できるのは、同じ国の人=日本人なのだろうとも思うんです。

 インドネシアに赴任していた際の出来事です。ある日本人の大使館関係者が腹痛を訴えたので、身体疾患を診てくれる外国人医師を紹介しました。しかし、その患者さんは「この症状は重くないだろうか、この医師に診てもらっていいのだろうか」と大きな不安を抱いていて、治るものも治らないような状況でした。しかし、私たちが「このドクターは信頼できますよ」と一言伝えると、初めて安心した表情を見せて、その後治療を無事に受けて回復しました。日本人には、そういう仲介役が必要なのかなと思います。

中島 私は、まさにその仲介役として、ベトナムのクリニックに雇われて働いています。外国人からみると、日本人は特殊なクライアントであることは間違いないです。英語がしゃべれないために現地のコミュニティになかなかなじめず、駐在員やその家族以外とはコミュニケーションを取らないケースもあり、メンタル面でのバランスを崩しやすい人が多いと思います。

 今回は、海外で働く日本人医師としての立場から対談をさせていただいていますが、日本人がなぜ海外へ行くかというと、ほとんどの場合はビジネスのためですよね。そう考えると、医療に限らず俯瞰的に物事を見られる幅広い視野が必要で、そのためにジャムズネットがあると理解しています。この考え方で合っているでしょうか。

仲本 おっしゃるとおり、ジャムズネットでは医療に特化することなく、幅広い情報を発信しています。教育、文化、いろいろな面での仲介役になれればと思っています。

 ジャムズネットが在留邦人の困りごとを直接解決するというよりは、たとえば現地の専門家を紹介したり、「こういう感染症にかかったら、これらの病院に行くといいですよ」といった情報を伝えたりする“つなぎ役”になりたいと思っています。

 また、海外にいると「今日本がどうなっているのかを知りたい」「情報がほしい」という人がとても多いんです。海外に住んでいれば、日本のことにはさほど興味がないのではないかと思ってしまうのですが、情報を求めている人は多いです。ジャムズネットには、在留邦人と日本の情報をつなぐ役目も求められていると思います。

中島 ジャムズネットのホームページを医師が見ると、「これは何の組織なんだろう」と思うかもしれません。でも、深く考えてみると、海外で暮らすには医療情報以外も必要なんですよね。そういった部分の理解が進むといいなと思っています。

まとめと次回予告

 お二人の対談はまだまだ続きます。次回のテーマは、『日本では珍しい感染症』。現地での体験談を交えながら、海外ならではの困りごとに対して、医師として必要な能力は何かについて探っていきます。

<参照>
JAMSNETホームページ
JAMSNET-東京ホームページ