年収1千万アップも!? アメリカ勤務医の秘密兵器とは

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その41

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。

今回もシカゴ大学心臓外科に勤務されている北原大翔先生と対談です!
北原先生は留学を志す学生や医療者のやる気を起こさせるYoutubeチャンネル『チームWADA【本物の外科医YouTuber】』も運営されています。その登録者数はなんと14万人超え!

今回は海外、特にアメリカでのポジション(職や仕事のこと)の探し方や給料交渉の仕方についてお話を伺いました。海外で楽しく働いていくには技術や知識、語学力は当然のことながら、労働すること自体に関する知識もしっかり身につけておくことが重要です。

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対談者の北原先生(画像:北原先生提供)


グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。

 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。

 前回に続き、臨床フェローからアテンディングとしてアメリカで勤務される北原先生にご登場いただきます。気になる報酬についての実態や契約交渉や、また働きやすさを左右する残業など職場での労働時間について、北原先生と中島先生それぞれのご経験を通して、詳しくご紹介していきます。

アメリカは診療科目によって給与が違う?

中島 前回はアメリカとベトナムを例に、臨床面や同僚との付き合い方などの違いについて話していきました。今回は勤務医としての報酬、条件面における日本と海外の違いについて、おうかがいできればと思います。

北原 報酬はアメリカの方が高いと思います。特に勤務医だと科によって全然給料が違います。日本はほとんど一緒じゃないですかね。例えば皮膚科でも心臓外科でも泌尿器科でも内科でも、なんとなく同じぐらい。外科系がちょっと高いかなという感じだと思いますが、アメリカだと2、3倍は平気で違います

 日本と違ってアメリカは、診療科ごとに医師の数が決まっているので、報酬の高い診療科に入るためには熾烈な競争に勝ち抜かなくてはいけません。

中島 報酬のベースが科によって違うんですね。あとはアテンディングになることで収入が高まる部分もありますよね。

北原 はい、逆にいうとアテンディングになるまでは大体一緒で、科による違いもほとんどないです。

 あと日本と異なる点でいうと、アメリカでは例えば手術をたくさんやっている人はその分収入が多いとか、歩合制で契約している外科医も結構います

中島 北原先生も今の病院では、手術の執刀数で給与が決まるんですか?

北原 今は固定給ですね。前の病院は固定給+手術などをした分だけインセンティブがつくシステムでした。これはもう病院ごとでも違うし、人によっても違います。

年収1,000万円アップも!?
医師が交渉のため雇うのは…

中島 私の場合もまず病院からこんな契約内容でどうですか、と提示されてからお互いに交渉をしていいところに収める、という感じですね。たまに給与交渉する機会があって、交渉で上げていきます。北原先生は、今の契約はどのように交渉したんですか?

北原 実は、交渉はしてないんです。本当はすべきなんですけどね(苦笑)。アメリカ人はほぼみんな交渉していますし。交渉を当たり前のようにすることが日本とアメリカの大きな違いだと思いますが、場合によっては自分の代わりに交渉してくれるネゴシエーター(交渉人)を雇う人もいるみたいです。

 例えば二つオファーをもらったとネゴシエーターに相談すると、ネゴシエーターがその二つの病院に連絡を取って、契約内容の条件を上げてくれるんですよ。それによって年収が1,000万くらい変わることもあるらしいです。

中島 ええっ、1,000万円もですか!?

北原 はい。でも私の場合は、そんなにオファーは来ないだろうと思っていたので、最初に来たオファーに対して「受けます」と答えてそれで終わりました。なので、交渉とかという感じではなかったですね。

中島 そうだったんですね。私は自分でやってみて分かりましたけど、英語で交渉するのってきついんですよ。日常で使っている英語と全く違う語彙でしゃべらなきゃいけないし、普段の伝え方とも違うし。

北原 たぶん日本人って、こういう交渉はあんまりうまくないですよね。「雇ってくれてありがとうございます」みたいな感じがあるじゃないですか。雇ってもらえたらもう本当に万々歳で、何か下手なことを言うと、こいつちょっと生意気だとか金のことしか考えていないって思われるんじゃないかとか、そういう思いがありますよね。

 今後交渉ができうる場面が来たら、交渉したいなとは思っています。

中島 私は一応病院との交渉はしてきているんですが、交渉というか「辞める」と言ったら引き留める手段として給料が上がっていくみたいな、求めてるのはそうじゃないんだけど、でも給料上がってありがとう!!ということがありましたね(笑)。

休みは少なくても
「アメリカの方が働きやすい」理由

中島 福利厚生面的な部分で日本との違いを感じるところはありますか? 休みが多いとか。

北原 実は休日自体はアメリカよりも日本の方が多いです。もちろん、立場とか役割によっても全然違うので、一概に私の経験だけが全てということではないんですが。ただ、私の感覚としては、アメリカの方が、オンオフがすごくはっきりしている印象はあって、そこは働きやすいですね。

 日本で働いていた時は、いつでも呼ばれうるなっていう意識を持っていました。携帯を持って、いつ病院から電話がかかってきても対応しないといけないという感じです。アメリカに来てからは、土日や休日に働くことへのハードルはすごく高くなりましたね。同僚の医師からしたら「土曜日に働くってどういうこと? 今日は休みだろ」みたいな。患者さんも医療者も、そういう感覚を持っていますね。

中島 私が勤めているベトナムの外国人向けクリニックは、夕方からはクローズしています。これが現地での当たり前の状況だと、患者さんも理解してくれていて、休日に見てくれとかっていう無茶を言う人は少ないですね。「いや、うちの時間はここまでなんですよ、休日はいないものはいません」みたいな。うちはクリニックなので、病院だとまた状況は違うのでしょうが。

 残業なんかも日本に比べたら少ないんじゃないですか?

北原 あんまり残業自体の感覚がないですね。例えば、手術が1件あって、手術が終わればその日の業務がおしまいだったら、14時に終われば14時に帰宅する。手術がなければ病院に行く必要もない。僕がメドスターで働いていた時は、手術がない日に病院へ行かなくても誰も何も言わないです。だって別にいる必要がないから。

 オンコールとかそういうシステムの中で、病院の中にいなくちゃいけない時間帯とかに関してはもちろんいるんですけど、それ以外は単純にその手術をやってお金を稼いでいれば、これくらいの時間働きなさいとかっていうのは事務の方で適当にやってくれていますね。

 日本だと17時とか18時とか夕方にミーティングがありますよね。例えば13時に仕事が終わったけど17時までちょっと待とうかって感じになって、14時15時に帰るかとはならない。アメリカでは、金曜日の15時はもうほとんど人がいないですよ。日本人しか残っていなかったこともあります。

中島 コンサルタントの働き方に近いですよね。基本プロジェクトベースというか、患者さんやケースで動かしていて、成果さえ出れば長時間働くことには何も意味がないというような。

北原 ええ、そんな気がしますね。

まとめや次回予告

 報酬や働きやすさという点から、海外勤務を振り返り、日本と海外との違いについてみていきました。報酬の仕組みや条件交渉など、ずいぶん日本との違いが出るところだったかと思います。

 次回は、現在、北原先生と中島先生が取り組まれている新たな活動について語っていただきながら、その意義や展望をご紹介します。