海外から見た日本人医師は、正直「安くて使いやすくて…」

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その42

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。

今回で北原大翔先生との対談も最終回!
北原先生は留学を志す学生や医療者のやる気を起こさせるYoutubeチャンネル『チームWADA【本物の外科医YouTuber】』も運営されています。その登録者数はなんと14万人超え!

今回は海外からみた日本人医師の、人材としての価値や、海外に出でどのように能動的に活躍すべきかなどについてお話をしていただきました。

日本人医師の人材としての価値は、高まりつつあると思いますので、このチャンスをどのように使うかというのも、医師としての臨床・基礎医学スキルの他に問われる時代になってきているように感じます。

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対談者の北原先生(画像は北原先生提供)

グローバル化が進む昨今、医師にとっても「海外」が身近な話題となっています。日本人の約100人に1人が海外で暮らす現代、先生方ご自身が国外で活躍したり、自分が診ている患者さんが外国に移住したりすることをサポートしなければならないことも十分あり得るのです。

 さらに新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し、在留邦人に対する健康面・医療面のサポートのニーズが高まっています。いまや、医師という職業を続けていく上で、海外の事情に無関心では成り立たない部分があると言っても過言ではないでしょう。

 本連載では、ベトナムで総合診療医とヘルスケアビジネスのアドバイザーという二つの顔を持つ中島敏彦先生がご登場。先生と関わりのある医師、看護師、ビジネスマン――国際的に健康・医療分野で活躍する方々を招き、グローバル社会の中で医師に何が求められているか、探っていきます。

 北原大翔先生との対談は今回が最終回。北原先生が取り組まれている海外留学に関する情報発信の活動を中心に、日本人医師が海外からどのように見られているのか、中島先生と語っていただきます。

YouTubeチャンネル登録者数は
13万人!「発信」の原点は

中島 北原先生は医師の海外留学に関する情報を発信する「チームWADA」という団体を設立して、ホームページやYouTubeなどで精力的に活動されています。こちらを始めるきっかけや、そもそも留学に関する情報発信をしていこうと思われた理由について教えていただけますか?

北原 理由は二つあって、一つは自分が海外留学をしようと思った時にあんまり情報を得られなかったということがあります。これは留学前に知っておけばよかったな、と思うことが結構あったりしたので、今は海外留学を目指す人も増えてきているし、そういう人たちに対して、自分が海外で働いている利点を生かして情報を伝えることができるんじゃないかと思って始めました。

 もう一つの理由は、自分が一日一日している経験が我ながらとても面白いものだと思ったからです(笑)。誰もが何かしらの価値を持っていると思うんですが、私は心臓外科医としてアメリカに行っているこの経験を、もっと価値のあるものとして届けられないかっていうふうに思ったんです。

 そういった私の経験や、海外で働いている他の医師の経験を伝えることで、それが医学生や若手医師のモチベーションになったり、医師以外の人たちにも興味を持ってもらえたりするのではないかと思って取り組んでいますね。

中島 活動を続けてきてよかったと思うことや、苦労はありますか?

北原 よかったことは人のつながりができたことですかね。繋がりができると団体に力がついて、さらにできることが拡がっていくのが楽しいです。

 ゲームのRPGみたいな感じですよね。強い敵を倒してまた別のイベントができるみたいな。心臓外科医としてのレベルももちろん上げていきたいですが、上昇率はなだらかになってきています。それはそれで続けながら、今は団体の活動はどんどんレベルを上げていけるのでそれは面白いですね。

 もちろん時間を使うので大変ですけど、あんまり苦労とは思っていなくて、例えば趣味で魚釣りをしている人がいたら、釣りに行くために朝早く起きて準備しますけど、それは楽しいからそんなに苦じゃない。それと一緒の感覚です。

中島 今見たら、YouTubeのチャンネル登録者数が13.1万人ですよ!

北原 そうなんですよね。中島先生にゲストに来ていただいたときからだいぶ増えたんです。

中島 そうですね。でもたぶん私は関係ない(笑)。

北原 いやいや、中島先生はもちろん関係ありますよ!(笑)

悪口じゃないけど…
日本人医師は海外からこう見られている

中島 私も今、取り組み始めていることがあって、海外の巨大病院グループから日本人の医師を毎年5名くらい雇用していきたいって言われているんですよ。

北原 すごいですね。

中島 そのためのプロジェクトというか、そのために何か作っていきたいと言われて今いろいろと進めています。でも私の経験からいうと、海外に日本人の医師を連れてきた場合に、1年後2年後に残っている確率は、おそらく50%切るんですよ。片道切符で来させられて日本に1年で帰されるというのは、普通に考えたら超つらいんじゃないかと思って。

北原 確かにつらいですね…。

中島 送り出した日本の上司や同僚からしたら「何しに行ってきたんだ!」って思うでしょうしね。元の病院にどの面下げて帰るんだってなりますよ。だから絶対、そうならないように日本との間に人材交流プログラムがつくれたらいいと思っています。海外に日本人の医師を連れてきました、トレーニングをしました、日本にちゃんと戻して、日本で働いてもらっていますってできるように。

 おそらく今、日本って円安が進んでいるから、アジアの医療センター化することもできるんじゃないかと思ったりもして。コストは安いしコースも豊富にできるでしょうしね。

 例えば、北原先生のコミュニティにいる人たちは、正直なところ全員がアメリカに行けるわけでもないし、試験に受かるわけでもないし、北原先生みたいにアメリカにずっといられるアテンディングになれるわけじゃないですよね。

北原 そうですね。人によっては来れなかったり、来ても帰る人もいたりしますよ。

中島 そのセカンドチャンスとして、今言ったトレーニングプログラムを受けてもらったり、日本に帰国した人を受け入れる病院を用意したりすることができるといいかなあと思うんです。そういうことを考えていきたいんですよね。

北原 面白いですね。

中島 日本人って人材として、クオリティがめちゃくちゃ高いんですよ。真面目だし、北原先生みたいに謙虚で、給料交渉もしてこないし(笑)。

北原 文句を言わないってやつですね(笑)。

中島 要するに海外から見ると、日本人の医師ってすげえ真面目でクオリティいいのに、安く使えるよねっていうのがあるんですよ。

北原 それはもう激しく同感するというか、めちゃくちゃそう思います! 日本人がどう思われているかというのはそこですよね。文句言わない、使いやすい。しかもしっかり働くっていうのがどこの国でも思われていますよ。

中島 悪口みたいに聞こえるけど悪口じゃない(笑)。

北原 だからこそ、それを強みにして戦える部分もあるので、それはいいことだと思いますけどね。

中島 医療業界に限った話じゃなくて、例えば飛行機のLCCとかでも日本人の客室乗務員は同じような理由ですごく人気あるんです。やっぱり、日本って給料が安い割に品質にハズレがないっていうところでそうなっていると思うんですけど、それって日本人としてはちょっと悔しいじゃないですか。

 安い人材として持っていかれて使い潰されて終わり、みたいなのは避けたい。なので、そうならないようにトレーニングプログラムにして、日本国内に還元できるようにしていきたいんですよね。

国内外問わず、働く場所を“選ぶ”時代

中島 それでは最後に、北原先生から海外に興味関心のある医師に向けたメッセージをいただけますか。

北原 行きたいと思ったら行ったらいいと思います。それ以外は特にないですね(笑)。海外で働くことは特別なことではなくなってきているので。海外は一つの選択肢にすぎないです。泌尿器科を選ぶように、心臓外科を選ぶように、どこで働くかを選んでいく時代にもうなっているし、日本で教育を受けた人もそういう考え方でいった方がいいんじゃないのかなと思いますね。

 もちろん、日本で働くことを選ぶのも全然いいと思うんですけど、他と比べて日本で働くことを選びましたって言える人になった方が少し豊かな感じがしますよね。

 アメリカも考えたけどアメリカよりも日本がやっぱりいいとか、アメリカがいいからアメリカに行くとか、そういう選び方ができる方がいいんじゃないかなと思います。

中島 ありがとうございました!

まとめや次回予告

 今回は、中島先生と北原先生の新しい取り組みをそれぞれ紹介いただきながら、海外で働くことの価値や、日本人がどのような人材として海外に受け入れられていくのかなど、今後の展望についてうかがいました。

 次回からは、ベトナムで企業の海外進出をサポートする会社の代表取締役である猪谷太栄氏に登場いただきます。中島先生と“情報通”猪谷氏に、海外ならではのリアルな医療現場の事情を語っていただきました。お楽しみに!