医師なのに給料足りないかも!? 海外勤務の現実は…

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その51

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。

今回も海外の医療機関で長らくカスタマーサービスや、事業開発部、事務長などとしてご活躍されているご経験をお持ちの金津初美氏に海外クリニックでの日本人医師の採用や現地での生活をテーマにいろいろ教えていただきました!

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ハノイのクリニックにて、旧正月のパーティーの準備をする金津氏(左端)とスタッフ(画像は金津氏提供_以下同)

海外行きの理由は「子の教育」
採用で不利にならない?

中島 以前はベトナムのクリニックの求人に応募してくる医師があまりいなかったから、医師免許を持っていて日本語が喋れればそれで採用!という雰囲気がありました。でも最近は、多くの日本人の医師が応募してくれるようになったから、その中でより良い人を採用したいという段階に移行してきた感じがしますね。

金津 ええ、この10年間ですごく変わりましたね。最近応募される医師は経験もおありだし、よく考えられてベトナムを選んでいる印象があります。

 また、お子さんの教育を考えて海外に出ることにした方がすごく多くて、新しい流れを感じます。

 ご自身の医師としての経験のためだけでなく、海外で働くことの重要な部分が、子どもを日本の外で育てて、グローバルに育てることにあるんです。幼稚園ぐらいの小さいお子さんがいる若い医師の面接でもその希望が多くて、日本でインターナショナルスクールに入学させるのではなく、海外のインターナショナルスクールに入学させたいと思われている方が多いですね。

中島 面接の中で、海外で働く動機に子どもの教育が出てきた場合、採用する側としてはプラスになりますか?

金津 プラスになりますよ。前回お話しした、「1、2年だけ働きたい」と言って電話だけで終わってしまった方のように、すぐ日本に帰ろうという先生はまずいらっしゃらないと思いますから。その国に根を張ってやっていこうと思われているのはプラス要因だと思います。

海外勤務は「良いマンションに住めて…」
――それ、ホント?

中島 子どもの教育で言えば、職場として日系クリニックを選んでインターナショナルスクールの教育費がカバーできるのかとか、その辺りはちゃんと調べることをオススメしますね。

 日本の常識にとらわれて、「俺は医者だから給料がいいだろう」と思っていると全然間違いで、「あれ、そんな生活全然できないじゃん」みたいなことは十分ありえます。これにはからくりがあって、ネットで調べると好待遇な日本企業の駐在員に関する情報しか出てこなくて、それを見て「医師だったらもっと良い社宅があって、もっと良い給料がもらえるんだろうな」と勘違いしちゃうんですよね。

金津 日本企業の駐在員は、いわゆるフルサービスのサービスアパートで、普通の2ベッドルームで4,000ドルとか5,000ドルというところに住んでいる人も多いですからね。医師であれば住居費も出るのが一般的ですが、そこまでの金額を出すクリニックはほぼないのではと思います

中島 ちゃんと現地の物価であるとか、学費であるとか、生活費は全部調べたほうがいいし、採用するクリニックはそんなことまでいちいち教えてくれません。逆にそんなこともわからないようなレベルの人間はいらないってことでもあるんで。これも、あとから気づきましたが(苦笑)。我々は現地採用なので、駐在員の情報ではなく現地採用の情報を見ないといけないんです。

金津 日系の会社が無料で駐在員に提供しているのと同レベルの住居費の補助を求める方は、ちょっと難しいかもしれませんね。

中島 日本に一時帰国する際の費用に関しても会社によって違いますね。年1回だけ出るとか年2回出るとか。これも交渉で決まる。

金津 ホント、人によって契約条件は全然違いますよね。私も先生方の条件は知らないですし、私の直属の上司も私の給与や条件は一切知りませんでした。

中島 私もかつての職場であるインターナショナルSOSと今の職場であるRaffles Medical Groupでも給与条件は全然違います。インターナショナルSOSでは患者数がある一定数を超えたら給料が上がるシステムでした。それで、自分がマーケティングやセールスをしていかないとやばいと思って、いろいろ始めるきっかけになりました。逆にRaffles Medical Groupは固定給なので働いたら負けっていうシステムです(笑)。

 給料交渉に関して言えば、英語でインターネット検索して外資の給料交渉の仕方を理解したり、求人サービスに登録して自分の市場価値がどの程度かを知っておいたりすることで、交渉しやすくなります。

 何も知らない状態で、「僕は日本から来た医師です。雇ってください」って言ったら、“好きにしてください、いつでもあなたがいい時にクビ切ってください”って言っているようなもので。まあそれは昔の私なんですが、今振り返ると、もうどうしようかなっていうくらい恥ずかしい(笑)。

まるで“村社会”…
狭い日本人コミュニティの苦労

金津 生活で言うと、日本に暮らしていたらプライベートで付き合う人はある程度選べるのが普通ですが、海外だと日本人の住むアパートが限られているなど、すごく小さい社会の中で生活することになるので、自分が好まない方との付き合いもあるわけです。そういうストレスはすごく大きくて、メンタル不調を起こされる方も多い。

 日本と違って、「メンタルに不調があって」とひとこと言うだけで、日本人社会全体に知れ渡るみたいなこともありますし…。趣味の時間を作ったり、ストレスにつぶされたり押し流されたりしないようにすることが大事ですね。

中島 そういう小さい世界であるということを理解しておくことは邦人診療においても重要です。あと、私個人としては、日本人社会にあまり深入りしないようにしていますね。今住んでいるのも、日本人は絶対住まないような怪しい地区の不良外国人向けアパートだったりします(笑)。

金津 大事です! 中島先生と言えばまずハノイの邦人で知らない人はいませんから。どこのレストランに行っても「あ、中島先生」ってわかってしまう(笑)。それを負担に感じてしまったりするとね。

中島 無医村に医師が行って潰されて帰ってくる話を聞きますけど、それに近い状況になる可能性があるんですよ。だから飲み会をやるときも、絶対日本人が来ない場所を選んで、気の置けない仲間とだけワーワー騒いだりは、よくやります(笑)。

 日系社会だけにこだわって生活しているとそうなりやすいので、院内外問わず多様なコミュニケーションを持つのが大事ですね。日本人以外と交流を持つことで、世界も広がってストレスも多少緩和されるので。いかに自分のバックグラウンドと違う人たちとうまくやるのかをイチから勉強する気持ちが持てるといいですよね。

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プライベートでは生け花の先生としての顔も持つ金津氏

まとめや次回予告

 住んでみたからこそわかった海外生活における苦労。特に給与・待遇やプライベートについては、海外に出てから後悔しないよう事前にきちんと調べたり対策したりすることが重要ですね。

 次回でこの対談も最終回。海外のクリニックで働くときに医師として求められる能力や役割について、金津氏と中島先生に、実際の経験を基に語っていただきます。