こんな医師は、海外に出ないほうがいい

グローバルに語ろう アジア医師と見る未来 その52

日本最大級の医療専門サイト であるm3.comのメンバーズメディア編集部様のご厚意で、ここに転載させていただけることになりました。将来海外で働くことを目指す医療者や、海外進出を考えているビジネスマン、そして医療系を目指す学生さんの参考になれば嬉しいです(マニアックすぎて需要がないか(´・ω・`)??)。

今回で金津初美氏との対談も最終回!海外のクリニックで求められる日本人医師像について意見交換をさせていただきました。

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ベトナムのラッフルズメディカルクリニック前にて、金津氏(左)(画像は金津氏提供)

日本にいた時よりさらに求められる
コミュニケーション能力

中島 今回は、海外のクリニックでどうすれば周囲とうまくやりながら働けるのか、そのポイントについて具体的にうかがっていけたらと思います。

 海外で働くときは、クリニックで雇用されていても、自分でクリニックを経営しているような気持ちを持って働くことが必要だと思うんですよ。そこのクリニックにおける日本デパートメントの代表みたいな意気込みというか、クリニックの院長になったつもりで働かなければいけない。

 その観点を持つと、一段高い視点にいけるので、そういう頭でこっちに来るといいと思いますね。

金津 そこは一番お伝えしたいところですね。海外に住んでいる日本人患者さんって、クリニックのブランドで選ぶ人はいないと思います。『中島先生がいるから』来てくれるんです。

 医師の方々に重たいことを背負わせるつもりではないんですが、必然的に先生方がクリニックの顔になっていくことは理解いただけるといいですね。

 あと重要なのが、ベトナム人ドクターをはじめさまざまな国のドクターや看護師などのスタッフと一緒に働くときのかかわり方。最近よく話題にもなっていますが、心理的安全性を作れるかがとても大事です。

 特にベトナム人はいい意味で自尊心の高い人たちが多いので、ミスをすぐその場で報告できるような風通しの良い環境を医師自らが作っていないと、報告があがってこなくて大きな問題になってしまうことにつながります。

 誰もが安心していろんなことを話せるような場を作っていくことが大事で、繰り返しになりますが「私は患者だけを診ます」では現場は回らないですね。

中島 いわゆる多職種チーム医療の経験が必要だし、リーダー経験も必要かなと思いますね。私は元々外科医だったので、術者や主治医としてのチームリーダー経験があったのと、緩和ケアチームにもいて多職種横断的に働いた経験があったから、こっちに来てもそんなに苦ではなかったです。そういう経験がない医師を見ていると、他の医師とコミュニケーションをとらないで、自分一人で抱え込もうとする人とか結構いますね。

こんな医師は海外に出ないほうがいい

金津 求められることで言えば、柔軟性もいろんな面で必要になります。ベトナムだと、クリニックの運営や診療に関して、保健省や保健局などといった行政機関とのしがらみがすごくあるんです。日本ではこの症例にはこういう処置をしますというのがあっても、ベトナムではそれが認められていないとか、この薬はこの症例に使えない、なんてこともよくあります。

 医療というのは「郷に入れば郷に従え」がなかなかできない分野かもしれませんが、ベトナムの保健省が認めていないことをやったことが漏れてしまえばクリニックの存続に関わることもあるので、そこも柔軟に対応していただく必要があります。でも事務長をしていて、そこが相容れないケースもよく見てきました。

 日本人の医師が海外に来るときには、そういったこともあることは理解されたほうがいいと思います。

中島 勘違いしちゃいけないのが、日本で教育を受けたから自分のレベルが高いと思い込み、何も考えずに日々の診療をこなしてしまうことは、非常に危険ですよね。改めてしっかりと国際基準やベトナム国内のやり方を知らなきゃいけないし、それを学ぶために海外に来ていることを忘れてはいけない

 「俺、すごいだろう」と思い込んでいるような人は来ないほうがいいんじゃないかと思いますね。日本国内でもそうだと思うんですけど、例えば、転職前の病院の基準を持ち出して転職先で文句を言うのってダメですよね。それと同じです。

金津 今の話に関係していることで、よく覚えているんですけど、中島先生がハノイにいらっしゃった時に、やけどのケアについて他のスタッフと話されている場面を見た時のことです。「そんなものは日本ではやってない」とただ否定するのではなく、「こういう方法もありますよ」と代替案を紹介されていて、看護師も受け入れやすそうだったんですよね。

 そういうところは、中島先生が持ってらっしゃるスキルだと思いますが、はなから否定するような態度では、相手も「はい」とはいかないなと思いました。

中島 頭ごなしに否定するよりはお互いに合意点を見つけ出すほうが、仕事がスムーズにいきますよね。

 これって海外だから求められるスキルでもなんでもなくて、日本でも働いている病院が違うと流儀が違ったりしますから、日本にいる時から普通に持つべきスキルだと思いますが…。

“お客さん気分”は捨てよう

中島 いろいろお話を聞いてきましたが、最後に、海外に興味を持っている医師に対してメッセージなどがあればお願いします。

金津 医師って特殊な分野を深く研鑽される職業だと思うんですが、それを横にも広げていきたいなと思われる方がいらっしゃったら、海外で働くことはまたとない機会になると思います。

 医師として確固たるポジションを持っていたら、何年か海外に出ても失うものはないと思うんです。元に戻ることはできる職業だと思うので。

 ご自分の医師としての技量だけではなく、人間的に大きくなりたいと思われる方にはぜひ挑戦していただきたいと思います。

中島 金津さんがおっしゃった通り、海外では、日本では得難い経験や価値に出会ういいチャンスだと思うんですけど、そもそも論として、日本でちゃんとチーム医療ができるであるとか、コミュニケーションができるかということがないとキツい面もあります。

 お客さん気分で来るのではなく、自分がしっかり貢献するんだという気持ちで来ていただくことが大事なんじゃないかと思います。

 金津さん、貴重なお話をありがとうございました!