ベトナムの新型コロナウィルスと 企業の負うべき安全配慮義務

これまでのベトナムの新型コロナウィルスに関して現地の総合診療医の視点でまとめました。
 
ここからは私のもう1つの仕事である産業医の視点で、新型コロナウィルスの流行に対してベトナムで活動する日系企業がどう対応するべきかをまとめました。
 
産業医の役目は、仕事で会社員の健康が害されないようにすることです。

  • 働く人の病気やメンタルヘルスの発症予防。
  • 企業が行うべき、労働者の健康管理等に対してアドバイス。
  • 日本の産業医のサポート。
  • 健康に関する情報提供、啓蒙。

    などがホーチミンに住む日本人産業医としての主な業務になります。

私が働くホーチミンの日本商工会議所の規模は2019 年 3 月現在1,022 社に達し、上海、バンコクに次ぐ世界第3位の規模です。

ただ多くの企業は中小企業であり、海外経験はベトナムが初めてという企業も多いので、今回のコロナウィルスの流行で、どのように対応すればよいのかよくわからないという声をよく聞きます。
 
今回の流行に対して、日本渡航医学会 産業保健委員会と日本産業衛生学会 海外勤務健康管理研究会から新型コロナウイルス情報 -企業と個人に求められる対策- という情報が発信されました。
この資料は駐在員に関する事にも言及しています。

今回はこの情報をもとに、私のベトナムでの臨床経験を交えて
「ベトナム進出日系企業は新型コロナウィルスにどう対応すべきか? 」について考えてみようと思います。

ベトナム進出日系企業は新型コロナウィルスにどう対応すべきか?

まずはベトナムにおける新型コロナウィルスの状況を理解していただくために

  1. COVID-19ってどんな病気?
  2. ベトナムと日本での新型コロナウィルス対応の違い
  3. ベトナムの新型コロナウィルスについて(2020年3月1日更新)

をご覧ください、

何よりもまず家族と自分の身を守ってください。

企業をテーマにするといいつついきなり個人の話からはじめます。
「人は城、人は石垣、人は堀」とも言いますし、中小企業だと「この人がいるから何とかやれてる」なんていう会社を見ることもあります。

何よりもここは住んでいるだけでリスクの高い海外です。
まず家族や自分自身の安全を確保しないと、安心して仕事ができないのではないでしょうか?

個人が行うべき対策

  1. ベトナムの状況をいち早く把握するために外務省. 海外へ渡航される皆様へ. から
    たびレジ(出張者、旅行者など)」や「オンライン在留届( 3か月以上滞在する方)」にまずは登録。 日本語で正解な情報が手に入る。
    • たびレジ :3か月未満の海外旅行者や海外出張者が旅行日程・滞在先・ 連絡先などを登録することで、外務省からの滞在先の最新の安全情報をアプリで受け取ることができる。
    • オンライン在留届: 外務省が提供する在留届の電子届システムであり、外国に住所または居所を定めて3か月以上滞在する日本人は在留届を提出することが法律で義務付けられている。この情報をもとに緊急事態発生時には大使館・総領事館から安否確認・支援活動等が提供される。
  2. 現地の感染症指定医療機関に行く手順をあらかじめ確認しておく。
    • いきなり指定医療機関(つまりCOVID-19発症者が集まるところ)に行くと、逆にその場で新型コロナウィルスに感染する可能性がある。
    • 自分のかかりつけ医がCOVID-19の判断がつけられるか、もしも疑わしい時に紹介先を持っているのかを先に確認しておくことが大事。
  3. 新型コロナウイルスに感染した場合は、現地の指定医療機関に搬送・隔離される。外部との通信手段(携帯電話および充電器)を常にカバンに入れておく。さらに携帯電話にはパスポートと医療保険のPDFを入れておく。

勤務への影響

日本国内の感染者数が増えていることにより、ベトナムで働く事に影響が出はじめている。

  1. 2月にはベトナム国内の地域によって,ワークパーミット(就労許可)の申請受理を拒否されるケースもあった(現在も一部地域で継続中)。
  2. また日本国内での感染拡大を受け、日本からの渡航者・日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国後の行動制限について把握しておく必要がある。 また日本の外の国に住んでいるならばその国からの渡航者に対する制限も知っておく必要がある。

ベトナムに拠点がある日系企業が行うべき対策

新型コロナウイルス情報 -企業と個人に求められる対策-を参考にしながらベトナムの日系企業に必要な事を以下にまとめました。

企業の法的対策のポイント

社員や取引先、顧客等に対しての以下の履行が求められる。

  1. 安全対策の遵守
    • 安全配慮義務、労働契約法 第5条、民法第415条
  2. 事業の継続に関する注意義務
    • 取締役等の善管注意義務、会社法第330条、 民法第 644 条

この方向性が異なるように思われる2つの法的な義務を適切に履行してゆくため、以下の観点から対応を十分に検討する必要がある。

  1. .重要業務の再検証:事業継続計画(Business Continuity Plan)の確認
    • 業務の一時中断(自粛)に備え、状況の変化にきめ細かく対応できるように中断すべき業務、継続すべき重要業務と業務を細分化し検証する。
  2. 顧客向けの対応と、説明すべき内容の準備・実施
  3. 社員、取引先等に向けた対応と説明
  4. 産業医との連携
  5. 自社の内部統制の確認
  6. 新型コロナウイルス対策本部(仮称)の設置

私の仕事は産業医ですので、ここからは特に安全配慮義務について説明します。

安全配慮義務とは

  1. 従業員が安全で健康に働けるよう企業が配慮する事。
  2. 労働契約法の第5条に以下の様に定められる。

安全配慮義務違反となる視点

  1. 予見可能性:事業者が予見できた可能性があったか?
  2. 結果回避性:事業者が回避できた可能性があったか?

今回の新型コロナウィルスに関する一連の事象の予見可能性は少なくともある。

引用

厚生労働省. 管理監督者むけメンタルヘルス研修マニュアル.

海外勤務者にまで安全配慮義務は及ぶのか?

及びます。

2015 年の中央労働基準監督署長事件の判決で、出張か駐在かに関わらず海外勤務者が現地で安全で健康的に働ける様に企業は安全配慮義務を負うと明示された。 •

海外勤務者に対する安全配慮義務の具体例

基本的なものとして以下がある。

  • 治安や健康への配慮。
  • 現地での生活に必要な予防接種。
  • 現地での健康や安全に関する研修。
  • 渡航前から渡航後までの期間における健康状態の確認や治療。
  • 海外勤務中のメンタルサポート。

新型コロナウイルス情報 -企業と個人に求められる対策- においては、産業保健スタッフ(産業医、衛生管理者、労働安全衛生担当職員など)が感染症危機対応の際に社内における産業保健の専門家としての役割が期待されています。
海外であっても企業の安全配慮義務は及びますので、是非一度 サポートを受けられるかどうか問い合わせてみると良いでしょう。

中には自分の会社に産業医がいるかどうかすらご存じでない方もいるようですので、これを機に関係性を構築してみるのも良いと思います。

産業保健スタッフに期待できる(かもしれない)役割

  1. 医学情報の収集と職場への情報提供。
  2. 新型コロナウイルス対策全般に関する医学的妥当性の検討と調整。
  3. 感染予防対策の実施および管理方法の検討と調整。
  4. 社員の健康状態にあわせた配慮の検討と実施
    • 特にこれが重要です
    • 高齢であったり、基礎疾患(糖尿病、心疾患、呼吸器疾患など)がある場合には重症化しやすいため、 健康診断の結果等を用いてこのような社員を把握し、事前に必要な配慮を検討しておく。

今回のCOVIDではどのような方が重症化するのかはわかっているので(COVID-19ってどんな病気?)、上記4は特に大事。

ベトナム国内で感染が拡大する前に考えておく事

  1. 感染が拡大してきた場合、人や物の移動制限が実施され、駐在社員やその家族は現地政府の指示に従って行動することを求められる。
    • 感染した場合、疑われた場合には現地の施設で隔離、治療があり得る。
    • 日本と同水準の医療へのアクセスが困難になることが予想されるため、流行が拡大する前に国外への退避を含めた対応を検討する。
  2. 高齢者や糖尿病、心疾患、呼吸器疾患を持つ者が重症化しやすいとされるため、配慮を要する。
    • リスク分類が必要。
  3. COVID-19が疑わしい場合は指定医療機関(ベトナムのローカル病院)への受診が求められる場合があるので、受診の仕方を事前に調査し社内で共有しておく。
    • 現在は政府の指定医療機関のみ、今後流行状況、医療体制の整備に伴い変化する可能性は高い。
    • いきなり自分の判断で指定医療機関に行くと、逆に新型コロナウィルスに感染する可能性がある。 近くの病院の医師や、かかりつけ医がCOVID-19の判断がつけられるか、もしも疑わしい時に紹介できるのかを事前にに確認し、いざという相談しておくことが大事。

駐在者がベトナムを退避しなければならなくなった時の想定をしておく。

  1. 退避・残留に関する方針やガイドランの策定
    • 移動の制限が行われ、病原性の判断にもある程度の期間が必要である。その間に社員の退避・残留の対応を事前に決定しておく必要がある。
  2. 必要物品・人員の確保
    • 生活必需品の備蓄等は国内の対策を踏襲し、現地に残留する場合や退避が困難な場合を想定した対策を作成し、必要な物品を決定する。また BCP(Business Continuity Plan)を遂行するための必要人員を決めておく。

海外進出企業に参考になる情報の紹介

新型コロナウィルスに関する情報

企業の対応に関する情報

新型コロナウィルスの広がりがわかる情報

ベトナム国内の情報

海外出張や旅行の際に重要な入国制限に関する情報。